奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学の紙谷史夏氏らは、日本の全人口を網羅するレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の第三者提供データを用いて、糖尿病の有無で下肢切断の発生率を比較、検討。その結果、糖尿病患者では非糖尿病者と比べ、大切断の発生率が約10倍、小切断発生率は15倍であることが判明。また2013~18年の5年間に大切断は低下傾向を示した一方で、小切断は変化がなかったと、BMJ Open2021; 11: e048436)に発表した。同氏は糖尿病患者で下肢切断リスクが高かった理由として、「フットケアを受ける糖尿病患者が限られているという事実と関連している可能性がある」として、今回の知見が下肢切断予防の効果的な治療戦略の策定に役立つとしている。なお、研究結果は糖尿病の有無別に下肢切断の発生率を評価した国内初の報告となる。

下肢切断の約6割が糖尿病患者

 糖尿病は下肢切断のリスクを高めることがこれまでの研究で示されているが、糖尿病患者では大切断(下腿、大腿部での高位切断)に加え、小切断(足趾、中足骨切断で踵を残す切断)が生じるため、患者のQOLや医療経済の大きな負担となっている。

 紙谷氏らは、厚生労働省により構築され、日本のほぼ全人口を網羅しているNDBの第三者提供データを用いて、2013年4月から5年間の下肢切断患者を対象に、糖尿病の有無別に大切断と小切断の性および年齢調整後の年間発生率を分析するコホート研究を行った。なお、下肢切断は各患者が最初に発生した切断をカウントした。

 NDBに集計された1億5,000万例余りのうち、996万2,459例(6.6%)が糖尿病に罹患していた。5年間の観察期間中に大切断は3万187例、小切断は2万9,299例に発生し、新規の下肢切断が年間約6,000例に発生していた。下肢切断の発生率は女性よりも男性の方が高く(37.0% vs. 63.0%)、糖尿病患者は大切断例の57.6%、小切断例の66.0%を占めた。

大切断発生率は減少傾向も、小切断は低下せず

 性と年齢を調整後の大切断の発生率は、糖尿病患者で10万人・年当たり21.8人、非糖尿病者で同2.3人であり、糖尿病患者における大切断発生率は非糖尿病者の9.5倍であった。同様に、小切断の発生率は、糖尿病患者で10万人・年当たり28.4人、非糖尿病者で1.9人と、糖尿病患者における小切断発生率は非糖尿病者の14.9倍に上った。

 糖尿病の有無別に見た発生率の差は大切断より小切断の方が顕著であり、非糖尿病者に対する相対リスクは女性よりも男性の方が高かった(大切断で8.7 vs. 10.2、小切断で12.0 vs. 17.9)。

 下肢切断発生率の経年推移をポアソン回帰モデルで解析すると、性および年齢を調整後の大切断の発生率は、2013年の10万人・年当たり5.5人から2016年には同4.4人と有意に低下していた(P<0.05)。一方、性および年齢を調整後の小切断の発生率は、2013年が10万人・年当たり5.6人、2016年は同4.7人で、有意な変化はなかった(P=0.63)。性、年齢、糖尿病の有無にかかわらず大切断発生率は低下傾向を示したのに対し、小切断発生率に低下は見られなかった。大切断の発生率低下については、他の国際研究の結果と一致しているという。

小切断は大切断を防ぎ、下肢救済の介入となる可能性

 下肢切断の原因として、近年は糖尿病の合併症である末梢神経障害や動脈硬化性疾患(末梢動脈疾患)の増加により血行障害の割合が大きくなっているという。

 糖尿病足病変は、医療者と患者が継続してフットケアに取り組むことで予防が可能であるといわれる。国内では、2008年4月の診療報酬改定で糖尿病合併症管理料が新設され、糖尿病患者に対するフットケアの普及が期待された。フットケア外来を開設する医療機関が増え、さらにバイパス手術や血管内治療も急速に進歩した。

 紙谷氏は「これらの努力にもかかわらず、われわれの知見は糖尿病患者では下肢切断リスクが非糖尿病者より有意に高い状態にあることを示している」と指摘。その背景として「実際に糖尿病足病変の予防を目的にフットケアを受ける患者は限られるという実情を反映している可能性がある」と考察している。

 同氏は「小切断は大切断を防ぎ下肢を救済するための介入として行われている可能性もあり、小切断が横ばいまたは2014年から上昇傾向にあることは、大切断の増加を抑制し質の高いケアを提供しているとも考えられる」との見解を示した。

糖尿病患者のより入念なスクリーニングと管理が重要

 糖尿病患者の下肢切断リスクが非糖尿病者より有意に高かった結果を踏まえ、紙谷氏は「糖尿病患者では、末梢動脈疾患と末梢神経障害の両方が足潰瘍および下肢切断を引き起こす可能性がある。潰瘍形成のリスクが高い糖尿病患者の特定は重要であり、下肢切断によるQOL低下と医療費の負担を軽減するには入念な糖尿病患者のスクリーニングおよび管理が不可欠である」と強調。「この研究結果は、インスリンやフットケアを含むより専門的な糖尿病治療、チーム医療の拡大、患者のエンパワーメントのための教育プログラムや活動の確立など国家的な医療戦略の開発に役立つだろう」と述べている。

(宇佐美陽子)

修正履歴(2021年8月26日):NDBオープンデータをNDBの第三者提供データに修正しました