過去30年間で世界の高血圧症患者は倍増し、12億人超に達したことが明らかになった。英・Imperial College Londonと世界保健機関(WHO)が、1990~2019年に184カ国・地域の1億人超を対象に高血圧症に関して解析した結果をLancet2021年8月24日オンライン版)に発表した。世界の高血圧症患者は1990年の6億5,000万人から2019年には12億8,000万人と倍増、半数以上の7億2,000万人が未治療であったという。

世界全体の有病率に変化なし

 非感染性疾患(NCD)の国際共同研究ネットワークNCDリスクファクターコラボレーション(NCD-RisC)は、1990~2019年に184カ国・地域で30~79歳の1億400万人が参加した1,201件の研究から集計した血圧測定および治療データを用い高血圧症の有病率、診断、治療について解析した。高血圧症は収縮期血圧(SBP)140mmHg以上、拡張期血圧(DBP)90mmHg以上および/または高血圧症薬の服用と定義した。

 解析の結果、1990~2019年に世界全体で成人高血圧症の年齢標準化有病率は約30%とほとんど変化していなかった(1990年:女性32%、男性32%→ 2019年:同32%、34%)。しかし高血圧症患者数は、1990年の女性3億3,100万人、男性3億1,700万人から2019年にはそれぞれ6億2,600万人、6億5,200万人に増加、全体では12億8,000万人に倍増した。これは主に人口増加と高齢化によるものだった。

疾病負担が低・中所得国にシフト

 国・地域別に高血圧症有病率を見ると、高所得国(ドイツ、スペイン、カナダ、スイス、英国など)で急激に低下、多くの低・中所得国、特にオセアニアで上昇し、疾病負担は高所得国から低・中所得国にシフトしていた。2019年には世界の高血圧症患者の82%に当たる10億人超が低・中所得国の居住者だった。

2019年に高血圧症有病率が最も低かった国はカナダ、ペルー、スイス。女性の高血圧症有病率が最も低かった(24%未満)国は、台湾、韓国、日本、スイス、スペイン、英国などの西欧州諸国(表1、2)。男性の高血圧症有病率が最も低かった(25%未満)国は、エリトリア、ペルー、バングラデシュ、カナダ、エチオピア、ソロモン諸島だった(表3、4)。

表1. 2019年の高血圧症有病率が低い上位10カ国(女性)

順位

有病率(人口に占める割合)

1.

スイス

17%

2.

ペルー

18%

3.

カナダ

20%

4.

台湾

21%

5.

スペイン

21%

6.

韓国

21%

7.

日本

22%

8.

英国

23%

9.

中国

24%

10.

アイスランド

24%

2. 1990~2019年に高血圧症有病率が低下した上位10カ国(女性)

順位

低下(%ポイント)

1.

ドイツ

18

2.

スペイン

14

3.

日本

13

4.

シンガポール

12

5.

ロシア

12

6.

イタリア

12

7

オーストリア

11

8.

英国

11

9.

イスラエル

11

10.

スウェーデン

10

表3. 2019年の高血圧有病率が低い上位10カ国(男性)

順位

有病率(人口に占める割合)

1.

エリトリア

22%

2.

ペルー

23%

3.

バングラデシュ

24%

4.

カナダ

24%

5.

エチオピア

25%

6.

ソロモン諸島

25%

7.

パプアニューギニア

25%

8.

ラオス

26%

9.

カンボジア

26%

10.

スイス

26%

4. 1990~2019年に高血圧症有病率が低下した上位10カ国(男性)

順位

低下(%ポイント)

1.

ドイツ

19

2.

スイス

14

3.

英国

13

4.

フィンランド

12

5.

カナダ

12

6.

ルクセンブルク

10

7.

ノルウェー

10

8.

オーストリア

9

9.

イタリア

8

10.

マラウイ

8

 2019年に女性の高血圧症有病率が高かったのはパラグアイ、ツバル、ドミニカ共和国、ジャマイカ(表5、6)。男性の高血圧症有病率が高かったのはパラグアイ、アルゼンチン、タジキスタン、および中欧・東欧諸国(ハンガリー、ポーランド、リトアニア、ルーマニア、ベラルーシ、クロアチア)だった(表7、8)。

表5. 2019年の高血圧症有病率が高い上位10カ国(女性)

順位

有病率(人口に占める割合)

1.

パラグアイ

51%

2.

ツバル

51%

3.

ドミニカ国

50%

4.

ドミニカ共和国

49%

5.

サントメ・プリンシペ

48%

6.

ジャマイカ

48%

7

ハイチ

48%

8.

イラク

48%

9.

エスワティニ

47%

10.

ボツワナ

47%

表6. 1990~2019年に高血圧症有病率が上昇した上位10カ国(女性)

順位

上昇(%ポイント)

1.

キリバス

13

2.

トンガ

13

3.

ツバル

12

4.

インドネシア

12

5.

ブルネイダルサラーム

10

6.

ハイチ

9

7.

ジャマイカ

9

8.

ミャンマー

9

9.

サモア

9

10.

ウズベキスタン

9

表7. 2019年の高血圧症有病率が高い上位10カ国(男性)

順位

有病率(人口に占める割合)

1.

パラグアイ

62%

2.

ハンガリー

56%

3.

ポーランド

55%

4.

アルゼンチン

54%

5.

リトアニア

54%

6.

ルーマニア

53%

7.

ベラルーシ

52%

8.

クロアチア

51%

9.

タジキスタン

51%

10.

セルビア

50%

表8. 1990~2019年に高血圧症有病率が上昇した上位10カ国(男性)

順位

上昇(%ポイント)

1.

ウズベキスタン

15

2.

アルゼンチン

13

3.

パラグアイ

10

4.

南アフリカ

10

5.

中国

10

6.

ブルネイ・ダルサラーム

9

7

タジキスタン

8

8.

ジャマイカ

8

9.

ドミニカ共和国

8

10.

ツバル

8

治療率、管理率に格差

 1990年以降、多くの国で高血圧症の治療率が向上し、降圧薬により血圧が正常値に管理されていた。特にカナダ、アイスランド、韓国などの高所得国では2019年の治療率が70%超、管理率が50%超と、30%ポイント以上の大幅な改善が見られた(表9~12)。またコスタリカ、カザフスタンなど一部の中高所得国では治療率が65%超、管理率が50%超と、高所得国よりも高い治療率、管理率を達成していた。

表9. 2019年の高血圧症治療率が高い上位10カ国(女性)

順位

高血圧症の全女性に占める割合

1.

韓国

77%

2.

コスタリカ

76%

3.

カザフスタン

74%

4.

米国

73%

5.

アイスランド

72%

6.

ベネズエラ

71%

7.

エルサルバドル

71%

8.

ポルトガル

71%

9.

カナダ

71%

10.

スロバキア

70%

表10. 1990~2019年に高血圧症治療率の上昇が大きかった上位10カ国(女性)

順位

上昇(%ポイント)

1.

韓国

46

2.

台湾

38

3.

南アフリカ

36

4.

コスタリカ

35

5.

ポーランド

35

6.

ベネズエラ

35

7.

セルビア

33

8.

ブルネイダルサラーム

33

9.

シンガポール

33

10.

コロンビア

33

表11. 2019年の高血圧症治療率が高い上位10カ国男性

順位

高血圧症の全男性に占める割合

1.

カナダ

76%

2.

アイスランド

71%

3.

韓国

67%

4.

米国

66%

5.

カザフスタン

66%

6.

マルタ

65%

7

コスタリカ

63%

8.

ドイツ

61%

9.

チェコ

59%

10.

シンガポール

59%

表12. 1990~2019年に高血圧症治療率の上昇が大きかった上位10カ国(男性)

順位

上昇(%ポイント)

1.

韓国

50

2.

カナダ

46

3.

コスタリカ

40

4.

ドイツ

39

5.

アイスランド

39

6.

台湾

37

7.

カザフスタン

37

8.

ポーランド

36

9.

スイス

36

10.

ノルウェー

34

 その一方で、高血圧症患者の5億8,000万人(女性41%、男性51%)は診断されておらず、自身が高血圧症であることを知らなかった。また、高血圧症患者の半数以上(7億2,000万人:女性53%、男性62%)が必要な治療を受けておらず、降圧薬で血圧が正常値に管理されていた割合は女性では25%未満、男性では20%未満にとどまった。

 サハラ以南のアフリカ、オセアニア、ネパール、インドネシアなどの低・中所得国では1990~2019年の高血圧症の治療率、管理率にほとんど変化がなかった。これらの国の2019年における治療率は女性で25%未満、男性で20%未満、管理率は10%未満だった(表13、14)。

表13. 2019年の高血圧症治療率が低い上位10カ国(女性)

順位

高血圧症の全女性に占める割合

1.

ルワンダ

11%

2.

ニジェール

15%

3.

キリバス

15%

4.

エチオピア

16%

5.

バヌアツ

16%

6.

タンザニア

17%

7

ソロモン諸島

17%

8.

マダガスカル

19%

9.

モザンビーク

19%

10.

ケニア

21%

表14. 2019年の高血圧症治療率が低い上位10カ国男性

順位

高血圧症の全男性に占める割合

1.

ルワンダ

10%

2.

ケニア

10%

3.

モザンビーク

10%

4.

バヌアツ

11%

5.

ソロモン諸島

11%

6.

ニジェール

12%

7.

マダガスカル

13%

8.

ウガンダ

13%

9.

トーゴ

14%

10.

ブルキナファソ

14%

(表1~14とも、Imperial College London・WHOリリース)

 論文の上級著者でImperial College LondonのMajid Ezzati氏は「診断が容易かつ低コストの薬剤が存在する高血圧症の治療が開始されてから約半世紀が経過したにもかかわらず、これほど多くの高血圧症患者が必要な治療を受けていないのは公衆衛生上の失敗である」と指摘している。

 論文の共著者でWHOのLeanne Riley氏は「世界の最貧国では高血圧症の検出率と治療率が低率のまま、それに高血圧症患者の増加も加わり、心血管・腎疾患の負担の割合はサハラ以南のアフリカ、オセアニア、南アジアへとさらにシフトするだろう」と警告。「これらの国々ではプライマリケアにおける高血圧の検出・治療能力を向上させ、国民皆保険の導入を加速させる必要がある」と付言している。