菅義偉首相が、就任からわずか1年余りで退陣することになった。出口の見えない新型コロナウイルス禍に募る国民の不安に十分に寄り添わず、説明を軽んじてきた首相は信頼を失墜。衆院選を前に有権者の怒りを恐れた自民党内で求心力を急速に失い、総裁再選を断念するしかなかった。
 国民生活を厳しく制約し、我慢や負担を強いる感染症対策が反発を招くのはやむを得ない。今日の「感染爆発」は、市民の自粛疲れや感染力の強いデルタ株によるところも大きく、全ての原因を菅政権の不手際に求めることはできない。問題は、首相が一国のリーダーとしていかに言葉を尽くし、理解や納得を得る努力をしてきたかだ。
 その点、首相は国会や記者会見で、何を聞かれても同じ答えを繰り返す棒をのんだような姿勢に終始した。命や健康、生活を脅かされる市井の人々の不安を和らげる努力を軽視したと言われても仕方がない。首相への不満は、そのまま7月の東京都議選をはじめ重要な選挙で政権への猛烈な逆風となって表れた。
 とりわけ、首相が地元の横浜市長選で全面支援した与党系候補の惨敗は致命的だった。首相は党内に敵の多い二階俊博幹事長を交代させ、今月中旬に衆院を解散、総裁選を先送りして苦境を乗り切ることを模索した。だが、なりふり構わぬ延命策と受け取られ「菅離れ」が加速、首相は自ら退陣の引き金を引いた格好となった。
 忘れてならないのは、首相の退陣は衆院選を戦う上で不利な材料を少しでも減らしたい自民党の論理の帰結だということだ。新しい指導者を選ぶに当たり、自民党が目先の人気取りではなく、国民の利益を真に最優先するのか、目を凝らしていく必要がある。 (C)時事通信社