新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に伴い、重症化病床逼迫の問題が幾度も取り沙汰されてきた。集中治療室(ICU)には「バイオクリーンルームであること」という施設基準が設けられており、これがハイケアユニット(HCU)および一般病棟をICUに転用する際の大きな障壁となっていた。日本集中治療医学会は9月3日、COVID-19による重症病床逼迫の現状に鑑み、「集中治療部設置のための指針」を改訂。ICUの空気清浄度に関する推奨を撤廃するとともに、厚生労働省が定める施設基準において、ICUはバイオクリーンルームであることとする文言の削除を求める提言を公表した。

ユニット全体の空気清浄度を高める必要性は低い

 厚労省が定める特定集中治療室管理料の算定対象となるICUの施設基準には、「当該治療室内はバイオクリーンルームであること」という記載があるが、具体的な基準は明記されていない。

 そこで同学会では、2002年に公表した「集中治療部設置のための指針」において、空気清浄度は「集中治療部にはISO(国際標準化機構)基準によるクラス7、米航空宇宙局(NASA)基準によるクラス10,000~100,000程度の清浄空気が供給されることを推奨する」と記していた。

 しかし、病棟内の空気清浄度を高めることにより集中治療部内における感染症の発生頻度が減少するという直接的なエビデンスはない。

 一方で、ユニット全体という広大な空間の空気清浄度を高めるには、HEPAフィルターなどを組み込んだ大規模な空調設備を要するが、その導入および維持には多大なコストが発生する。

 今回の提言では「このことがICUを新設または増設、あるいは現在のようなパンデミック下におけるHCUおよび一般病棟のICU転用を阻む障壁になっている」と指摘している。

HEPAフィルター設置の個室および陰圧個室の適正配備を

 2012年の米国集中治療医学会ガイドライン(Crit Care Med 2012; 40: 1586-1600)および2020年のインド集中治療医学会ガイドライン(Indian J Crit Care Med 2020; 24: S43-S60)では、ユニット全体の空気清浄化の必要はなく、陽陰圧あるいは空気の清浄度は、感染伝播の観点から患者ごとに個室により調整されるべきであると記載されている。

 ICU入室患者には、空調により診療エリアへの微生物の侵入を防ぐことで守られるべき易感染性の免疫不全例だけでなく、感染症を有し医療従事者や他の患者への感染伝播を防ぐ必要がある感染症例も含まれる。現在のCOVID-19パンデミック下において、空調の取り扱いはICU運営上の重要な問題である。

 そのため、同学会は今回の指針改訂で「集中治療部にはISO基準によるクラス7、NASA基準によるクラス10,000~100,000程度の清浄空気が供給されることを推奨する」という記載を削除し、「HEPAフィルター設置により手術室同等の空気清浄度を保つ個室と空気感染症にも対応可能な陰圧個室をユニット内に適正数配備することが望ましい」という文言に置き換えることを発表。

 同時に、厚労省が定める特定集中治療室管理料の算定対象となるICUの施設基準に記載されている「当該治療室内はバイオクリーンルームであること」という文言を削除するよう提言している。

(渕本 稔)