高齢者高血圧の降圧目標をめぐるガイドライン(GL)間の混乱に終止符を打つか―。中国・Fu Wai Hospital/Peking Union Medical CollegeのJun Cai氏らは、中国人高齢高血圧患者8,500例超を対象に、心血管(CV)リスク軽減のための至適降圧目標を検証すべく、多施設ランダム化比較試験(RCT)STEP 1)を実施。診察室血圧(OBP)で収縮期血圧(SBP)110~130mmHg未満を目指した厳格降圧群では、130~150mmHg未満を目指した標準降圧群に比べて、主要評価項目であるCVイベントのリスクが26%有意に減少したと、欧州心臓病学会(ESC 2021、8月27日〜30日、ウェブ開催)で発表した。結果はN Engl J Med2021年8月30日オンライン版)に同時掲載された。2015年に発表された米国主導のSPRINT試験(Final Report:N Engl J Med 2021; 384: 1921-1930)を追認する成績であり、高齢者高血圧に対する「患者が忍容できれば積極的に降圧を図る」流れが加速しそうだ。(関連記事「降圧目標が変わる! AHA2015でSPRINT試験発表」「SPRINT試験の結果を日本の高血圧診療に生かす」)

SBP降圧目標110~130mmHgと130~150mmHgの2群を比較

 高齢化の進展に伴い、高齢高血圧患者をいかに治療すべきかが議論の的となっている。しかし、高齢者を含む高血圧患者の至適降圧目標を比較・検証したRCTで一貫した結果は得られてない。現行の各国の高血圧GLが推奨する高齢者のSBP降圧目標は130mmHg未満から150mmHg未満まで幅があり2)、混乱を招いている。

 そこでCai氏らは、中国人高齢者高血圧患者を対象にCVリスクを軽減するための至適降圧目標を検証すべく、STEP試験を実施した。

 対象は、60~80歳でSBP 140~190mmHgまたは降圧薬服用中の漢民族高血圧患者。脳梗塞・脳出血の既往例などは除外した。

 2017年1~12月に中国42施設で登録した8,511例を①厳格降圧群(目標SBP 110mmHg以上130mmHg未満、4,243例)②標準降圧群(目標SBP 130mmHg以上150mmHg未満、4,268例)―の2群に1:1でランダムに割り付けた。当初3カ月は毎月、以降は3カ月ごとに受診してもらい、48カ月または試験終了時まで追跡した。

 主要評価項目は「脳卒中、急性冠症候群(ACS:急性心筋梗塞、不安定狭心症による入院)、急性非代償性心不全(以下、心不全)、冠血行再建、心房細動、心血管死」の複合とした。副次評価項目は主要評価項目の個別の構成要素、全死亡、主要有害心イベント(MACE:主要評価項目から脳卒中を除く)、腎転帰とした。

 血圧は医師または看護師が測定する通常のOBPに基づき、患者が5分以上安静後、坐位により1分間隔で3回測定。また、全患者に家庭血圧計が提供され、追跡中1週間に1日以上家庭血圧を測定することとした。データはBluetoothでスマートフォンのアプリに転送、データ記録センターに集積された。

 血圧管理改善へのアプリ管理の効果を検討するため、参加施設をアプリ管理施設と通常ケア施設に1:1でランダムに割り付けた。

 降圧薬は、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)オルメサルタン、Ca拮抗薬アムロジピン、利尿薬ヒドロクロロチアジドのいずれかから投与され、第一次薬はオルメサルタンまたはアムロジピンを選択。β遮断薬など他の薬剤は、主治医が必要で適切と判断した場合のみ許可された(ARB、Ca拮抗薬、家庭血圧計はメーカーから提供。家庭血圧の詳細な解析結果は、今後の研究で明らかにされる予定)。

 SPRINT試験とSTEP試験を比較すると、①血圧測定法:SPRINTでは医療スタッフ不在で自動血圧計により測定したautomated office blood pressure(AOBP)を用いたのに対し、STEPでは通常OBP②SBP降圧目標: SPRINTでは厳格降圧群120mmHg未満、標準降圧群140mmHgと、STEPに比べて10mmHg低い③両試験とも脳卒中既往例を除外しているが、SPRINTが糖尿病合併例を除外したのに対し、STEPでは含めた④主要評価項目:STEPでは冠血行再建、心房細動も含む⑤第一次薬は、SPRINTでは強制ではないが利尿薬優先であったのに対し、STEPではCa拮抗薬、ARB優先─などの違いがある。

 ただし、日本高血圧学会日本版SPRINT研究検討ワーキンググループが行ったCOSAC研究により、通常のOBPはAOBPに比べて平均11/4mmHg高いことが判明。したがって、SPRINT試験の厳格降圧群の降圧目標値は通常OBPでのSBP130mmHg未満、標準降圧群は同150mmHg未満とも解釈でき、STEP試験の降圧目標値とほぼ一致する。

9.2mmHgの血圧差で"The lower, the better"が明らかに

 ベースラインの患者背景は厳格降圧群と標準降圧群で同様で、平均年齢が約66歳、糖尿病既往が19.1%、CVD既往が6.3%、腎障害合併が2.3%、10年CVリスクの高いFramingham Risk Score 15%以上が64.3%を占めた。血圧は、厳格降圧群146.1/32.7mmHg、標準降圧群146.0/82.3mmHgだった。

 中間解析で厳格降圧群の有意な有益性が明確となったため、データ安全性委員会の勧告に基づき、試験は中央値3.34年の追跡時点で早期に中断された。

 SBPの推移を見ると、両群の乖離は早期から発現、持続し、追跡期間中の平均SBPは厳格降圧群126.7mmHg、標準降圧群135.9mmHgと前者で9.2mmHg低かった。家庭血圧でも、群間に同様の相違が認められた。厳格降圧群における降圧目標達成率は3年目には77.2%に及んだ。

 42カ月後の降圧薬平均服薬数は、厳格降圧群1.9剤、標準降圧群1.5剤だった。

 臨床転帰を見ると、主要評価項目の複合イベント発生率は、標準降圧群の4.5%(1.4%/年)に対して厳格降圧群では3.5%(1.0%/年)と、26%の有意なリスク減少を示した〔ハザード比(HR)0.74、95%CI 0.60~0.92、P=0.007、〕。

図. 主要評価項目の累積発生率

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N Engl J Med 2021年8月30日オンライン版)

死亡は有意差なし

 副次評価項目のうち脳卒中(HR 0.67)、ACS(同0.67)、心不全(同0.27)、MACE(同0.72)については厳格降圧群で有意なリスク減少を示したが、CV死(同0.72)、冠血行再建(同0.69)は両群で有意差には至らず、心房細動(同0.96)、全死亡(同1.11)も有意差はなかった3)

 主要評価項目についての事前に設定されたサブグループ解析では、主要評価項目への厳格降圧の効果は、年齢、性、ベースラインのSBP、糖尿病の有無、10年Framingham Risk Score(15%未満/以上)、家庭血圧のアプリ管理/通常管理かなどのサブグループにかかわらず、一貫していたという。

 安全性については、厳格降圧群で低血圧が有意に高率(3.4% vs. 2.8%、P=0.03)だったが、眩暈、失神、骨折、腎転帰(推算糸球体濾過量低下、血清クレアチン値上昇など)などは両群で有意差がなかった。

 以上の結果から、Cai氏は「STEP試験の結果は、重篤な有害事象や腎障害の増加を来すことなく広大な心血管ベネフィットを得るために、高齢患者の降圧目標値をSBP 130mmHg未満に設定することを支持している」と結んだ。

血圧管理のゴール変更の時:CVイベントリスクに焦点を当てたアプローチを

 オーストラリア・University of TasmaniaのMark R. Nelson氏は"Moving the Goalposts for Blood Pressure ― Time to Act"と題した同誌の付随論評(2021年8月30日オンライン版)で「STEP試験はSPRINT試験以来追い続けられてきた、現在受け入れられているレベルより低いSBP降圧目標値が、相対的に安全に真の臨床ベネフィットをもたらすとのコンセプトを追認した」と指摘。「STEP試験は血圧単独よりも有害CVイベントの絶対リスクに焦点を当てたアプローチを、広く採用するための推進力となるだろう」としている。

 2018年ESC/ESH高血圧GL作成委員会委員長でdiscussantを務めたUniversity College LondonのBryan Williams氏は、SPRINT試験の一部参加対象でルーチンのOBP記録と試験中AOBPの推移を比較した観察研究を紹介(JAMA Intern Med 2020; 180: 1655-1663)。「SPRINT試験の到達血圧値はOBPで厳格降圧群130mmHg未満、標準降圧群約140mmHgと、ほぼSTEP試験と同様だった」と指摘した。

 さらに、高齢者では生理機能や合併症などの不均質性が劇的に増大する点を強調。「高齢者高血圧の治療は、個別の降圧目標と薬剤選択を必要とする古典的な例である」とした。その上で、「STEP試験の結果から65歳超の高齢者の個別の降圧目標値は、まず140/90 mmHg未満の達成を試み、忍容性があればSBP130mmHg未満を目指そうと言えるだろう」と解説。ただし、「全員が容易に達成できる値ではなく、治療の持続には忍容性が重要である点に留意しながら、可能な範囲で低い血圧の達成を試み、到達すべき」との見解を示した。

 前述のJSHワーキンググループでは、AOBPとOBPとの相違から「AOBP 目標値120mmHg未満の厳格降圧群でCVイベントの有意な減少を示したSPRINT試験の結果は、日本のJSH2019 GLにおける74歳未満の患者の推奨SBP降圧目標値130 mmHg未満を支持する結果と考えられる」としている。STEP試験はこれをさらに強固に支持するエビデンスと言えそうだ。今後、各国の高血圧GLにどのように反映されるかが注目される。

1) Strategy of Blood Pressure Intervention in the Elderly Hypertensive Patients

2)①米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA、2017年):65歳以上で130mmHg未満②米国内科医学会(ACP、2017年)および中国(2018年):60歳以上で150mmHg未満、③欧州高血圧学会(ESH)/ESC(2018年):65歳以上で忍容できれば130~139mmHg④日本(2019年):忍容性があれば原則として、65~74歳未満は130 mmHg未満、75歳以上は140mmHg未満⑤世界保健機関(WHO、2021年):合併症のない全高血圧患者で140mmHg未満

3)評価項目は異なるが、SPRINT試験の主要評価項目のイベント発生率は2021年の最終報告によると、厳格降圧群1.77%/年、標準降圧群2.40%/年であり、STEP試験の対象の方がCVリスクは低かった。死亡リスクの相違の理由は(SPRINT試験では厳格降圧群で全死亡や心血管死が有意に減少)、原著では対象集団の民族的な背景とともに、試験デザインや登録基準、SBP降圧目標値などの違いによって部分的に説明できるかもしれないとしている

(杉田清美)