欧州心臓病学会(ESC)は急性/慢性心不全の診断・治療ガイドライン(GL)を5年ぶりに改訂し、年次学術集会(ESC 2021、8月27~30日、ウェブ開催)で発表した。今回の改訂では、左室駆出率(LVEF)が40%以下の心不全(HFrEF)の新しい治療アルゴリズムが示され、推奨クラス1の治療薬として、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンとエンパグリフロジンが追加された。また、LVEFが41〜49%の心不全(HFmrEF)の診断に関して、LVEF以外の基準であったナトリウム利尿ペプチドの上昇やその他の構造的心疾患が必須基準から除外された他、HFmrEFの定義、診断基準にも変更があった。改訂版GLはEuro Heart J2021年8月27日オンライン版)に同時掲載された。

SGLT2阻害薬含む5剤の薬物治療後、デバイス治療へ

 今回、示されたHFrEFの新しい治療アルゴリズムはの通り。

図. HFrEFの新しい治療アルゴリズム 

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Euro Heart J 2021年8月27日オンライン版)

 まず、推奨クラス1の治療薬として、従来のACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 (ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)に加え新たにSGLT2阻害薬であるダパグリフロジンとエンパグリフロジンが推奨された。前回のアルゴリズムでは、まずACE阻害薬とβ遮断薬を投与し、改善が見られない場合はMRA、次いでANRIと投与順序が定められていたが、今回は全ての薬剤を同列に扱うことになった。これら4つの鍵となる薬剤はできるだけ迅速かつ安全に使用すべきとされ、ループ利尿薬も従来通り推奨クラス1とされた。

 これらの薬剤を使用し3カ月以上経過しても改善が見られない場合は、デバイス治療を検討する。LVEF 35%以下、QRS幅130ミリ秒未満の場合は植え込み型除細動器(ICD)、洞調律でLVEF 35%以下、QRS幅130ミリ秒以上の場合は心臓再同期療法〔CRT、両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)/両心室ペースメーカー(CRT-P)〕が推奨された。   

 ICDの推奨は、虚血性の病態では前回と同じクラス1だが、非虚血性の病態ではクラス1から2aに変更。CRTは、QRS幅が150ミリ秒以上の場合はクラス1で、130〜149ミリ秒ではクラス1から2aに変更された。

 また、改訂版GLではHFrEFにおけるtailored managementの重要性が強調された。体液過剰の場合は利尿薬(推奨クラス1)、心房細動の場合はクラス1として抗凝固薬やクラス2としてジゴキシン、肺静脈隔離術など、患者の病態に応じた推奨治療が示された他、全ての患者に対して入院率を低下させQOLを改善するために運動・リハビリテーションなども推奨された(推奨クラス1)。

 さらに新たな治療薬として、ニューヨーク心臓協会(NYHA)新機能分類クラスⅡ~Ⅳの患者で、ACE阻害薬またはARNI、β遮断薬、MRAを投与しても心不全が悪化した場合、死亡や入院のリスクを低減するために経口可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬vericiguatが追加された(推奨クラス2b)。

HFmrEFは「LVEFがやや低下している心不全」へ

 HFmrEFに関する変更点もあった。これまでHFmrEFは「LVEFがミッドレンジにあるHF(heart failure with mid-range ejection fraction)」の略であったが、今回用語が変わり、「LVEFがやや低下している心不全(heart failure with mildly reduced ejection fraction)」とされた。シンガポール・Duke-National University of SingaporeのCarolyn S.P. Lam氏は今回の改訂について、「HFmrEF患者もHFrEF患者と同様の治療による効果が得られる可能性があるというエビデンスに基づいたもの」と説明した。

 HFmrEFの診断基準にも変更があり、従来はLVEF 40〜49%、ナトリウム利尿ペプチドの上昇に加え、関連する構造的心疾患(左室肥大、左房拡大)あるいは拡張機能不全のうちいずれかが必須であった。今回の改訂では、LVEF 41〜49%が必須である一方、ナトリウム利尿ペプチドの上昇やその他の構造的心疾患は必須基準ではなくなり、診断の可能性を高めるものとされた。

 HFmrEFの治療に関しては、従来の利尿薬(推奨クラス1)に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、MRA、サクビトリルバルサルタンがクラス2bで追加された。

 合併症の管理についても新しく推奨が出された。その1つであるがんに関しては、クラス1として、心毒性のリスクが高いがん患者(心疾患の既往歴や危険因子、心毒性薬剤への曝露などと定義)に対し、抗がん薬治療の前に腫瘍循環器学に詳しい循環器専門医が心血管(CV)評価を行うこととされた。クラス2としては、アントラサイクリン系化学療法中にLVEFが10%以上低下し50%以下になると定義される左室収縮機能障害を来したがん患者では、ACE阻害薬とβ遮断薬(カルベジロールが望ましい)による治療を検討すること、また、心不全を引き起こす可能性のある抗がん薬治療を受ける全てのがん患者においてベースラインのCVリスク評価を考慮することが示された。

編集部