新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生により、わが国の集中治療医療体制の長所と短所が明らかとなった。諸外国に比べCOVID-19重症患者の救命率が高いものの(関連記事「アルファ株、ECMO施行例が若年化傾向」)、集中治療室(ICU)の病床数は少なく、欧米ほど重症者数が多くないにもかかわらず病床が逼迫、医療崩壊と報道される地域も発生する事態に至った。こうした現状を踏まえ、日本集中治療医学会は9月13日、脆弱さが浮き彫りとなった集中治療医療体制の強靭化に向けた提言を発表。有事の際に非ICU高度急性期病床を速やかにICU病床として運用するための事前計画の策定や、「集中治療科」を新たに標榜科として認め、集中治療科医の育成強化などについての方策を示した。

欧米諸国に比べて半数程度のICU病床数

 昨年(2020年)4月に発表された経済協力開発機構(OECD)の資料によると、OECD加盟22カ国において人口10万人当たりの平均ICU病床数は12.0床であるのに対し、日本では5.6床と半分弱にすぎない。加えて、各施設のICUの規模も小さく、2017年度病床機能報告を用いた解析では、ICU病床数の中央値は8床だった(日本集中治療医学会雑誌 2021; 28: 123-125)。現状、通常診療として7~8割のICU病床が稼働しており、COVID-19重症例に対し即時的に使用できる病床数は極めて限定されていた。実際、昨年12月以降の流行第三波および今年8月の第五波において重症病床が各地で逼迫する事態に陥り、欧米諸国に比べてICU病床数が圧倒的に少ないという弱点が明らかとなった。

 一方、今後は地域医療構想に基づく医療機関の再編・統合および病床削減が求められる情勢に鑑みると、ICUおよびICU病床の絶対数を数倍程度に増やすことは困難かつ現実的ではないと考えられる。そのため有事に際しICUのキャパシティーを拡大できるよう、事前計画を策定する必要がある。

提言1. 事前に地域医療機関の再編成を計画せよ

 同学会では、COVID-19重症患者のデータベースである横断的ICU情報探索システム(CRISIS)やICUに入室した患者情報を収集し、各施設間で比較することで集中治療の質向上に寄与する日本ICU患者データベース(JIPAD)などを活用したICU利用状況のリアルタイムモニタリング体制および地域医療機関の再編成を事前に計画することを提言。

 また、「ICUを戦略的に配置するため各都道府県が異なる定義、フォーマットで情報管理を行うのではなく、国家としての包括的な情報の一元的管理が必須である」と指摘している。

 さらに、病床数200床以上かつ高度急性期医療機能を有する施設の非ICU高度急性期病床を有事の際に速やかにICU病床に転用するため、救命救急入院料1ないし3、ハイケアユニット入院医療管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料などを算定する病床や、急性期一般入院料1などを算定する病床に対して迅速に「ヒト」「モノ」を加配すべきと主張。特定集中治療室管理料1~4および救命救急入院料2・4を算定する病床と同等、または類似する病床機能を発揮させることができる体制の構築を求めている。

 また、ハイケアユニットや一般病棟をICUに転用する際の障壁となる現行の特定集中治療室の施設基準に記載されている「当該治療室はバイオクリーンルームであること」という文言についても削除を求めている(関連記事「ICU転用を阻む施設基準の文言削除を要望」)。

提言2. 「集中治療科」を標榜診療科に認定せよ

 ICU病床数に対する集中治療科医の割合と患者予後との関連を検討した英国の研究では、7.5床に1人以上の集中治療科医の配置と死亡率の低下が有意に関連するとされている(JAMA Intern Med 2017; 177: 388-396)。この配置割合と週40時間労働を考慮した場合、わが国で必要とされる集中治療科医数は約7,200人と推計されるが、今年4月1日時点の集中治療専門医数は2,127人であり、30%程度にすぎない。

  現在、政府が基幹統計として実施している「医療施設調査」に「集中治療科」は含まれていない点を踏まえ、提言では集中治療科を新たに標榜診療科として認め、集中治療科医の増員に努めること、人工呼吸管理を含む一定レベルの重症患者管理を行える医師を養成・認定する認定医制度などを設けることで、平時には基本診療科に従事し、パンデミックなどの爆発的な集中治療医療の需要増加時に対応できる医師の育成の重要性を訴えている。

 この他、看護師および臨床工学技士の育成と配置についても言及。人工呼吸器をはじめとする機器に熟練しICUでの業務に従事可能な看護師や、病態生理の理解に基づき生命維持管理装置の操作、管理を担う臨床工学技士の育成を強化し、平時と有事で柔軟かつ戦略的に配置できるよう事前に計画し、有事に備える必要があるとしている。

提言3. 広域集中治療搬送システムおよび遠隔ICUによる診療支援を

 COVID-19パンデミック下においては、病床が逼迫した地域とそうでない地域が存在し、前者においてはCOVID-19以外の患者に対する医療供給体制も逼迫した。地域医療の崩壊を防ぐには病床拡大や人員補充だけでなく、医療環境・資源が切迫している地域から余裕のある地域に患者を送り出すという選択肢も重要となる。

 集中治療科医が治療を継続しながら集中治療を要する患者を他の地域へと搬送する広域集中治療搬送システム(Mobile ICU)は極めて有用とされ、コロナ下でも体外式膜型人工肺(ECMO)施行患者の搬送が可能なECMOカーによって、都道府県を越えて搬送した事例が複数報告され、治療成績も良好だった。

 しかし、ECMOカーは国内に数台しかないため、提言では「今後は自衛隊などの搬送車両や輸送機なども視野に、搬送能力向上を目指す必要がある」と指摘している。

 また、同学会では『集中治療を要する重要患者の広域搬送(Mobile ICU)ガイドライン』の作成に着手しており、「平時からこうした広域搬送に対応できる人員の育成や広域搬送の障害となる行政上の障壁の解消、診療報酬上の評価を加えることも必要である」と主張。

 さらに、遠隔地の集中治療科医が現場医療者に対して効率良く診療支援を行える遠隔ICUシステムの普及、および診療報酬をはじめとした医療制度によるサポートも求めている。

提言4. 厚労省に「集中治療対策室」の設置を

 今後、同学会では集中治療医療が必要な重症患者に対し、診療支援および搬送調整などを担うコンサルテーション窓口ICYS(アイシス)を構築する予定である。COVID-19やECMOに限定せず、個々の症例相談や集中治療医療に関する一般的な質問などにも対応し、少人数から大規模にわたる専門家派遣や重症患者の広域搬送調整も行うという。

 最後に、同学会は厚生労働省に独立した部門として「集中治療対策室」を設置することを提言。同室が中心となって日本独自の医療構造の改革を図り、国家戦略として長期的な観点から今後の有事に迅速に対応できる集中治療医療体制の確立を目指す必要があると強調している。

(渕本 稔)