オランダ・Leiden University Medical CenterのNicolien A. van Vliet氏らは、約7万4,000例の個人レベルデータ(IPD)解析により甲状腺機能障害と認知機能低下との関連を検討。ベースラインおよび年次推移のいずれにおいても、少なくとも潜在性の甲状腺機能亢進症/低下症例と甲状腺機能正常例で認知機能に有意差は認められなかったとの結果をJAMA Intern Med2021年9月7日オンライン版)に報告した。

IPD解析と標準化平均差で異質性を克服

 認知症関連の臨床ガイドラインにおいて、甲状腺機能障害は治療可能な認知機能低下の一因とされているが、両者の関連について検討した学術文献の知見には一貫性がない。

 van Vliet氏らは、1989~2017年に実施されたコホート研究・調査23件(甲状腺機能と認知機能のデータを含む縦断研究15件、認知症と甲状腺機能障害の関連に関するメタ解析6件、米国民保健栄養調査2件)・7万4,565例のデータを抽出。IPD解析により、甲状腺機能障害と認知機能の関連を横断的および縦断的に検討した。

 甲状腺機能は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の統一カットオフ値と各研究の遊離サイロキシン(FT4)値に基づき、顕性/潜在性の甲状腺機能亢進症、甲状腺機能正常、顕性/潜在性の甲状腺機能低下症の5群に分類した。

 主要評価項目は全体的認知機能とし〔主にMini-Mental State Examination(MMSE)で評価〕、副次評価項目は遂行機能、記憶力、認知症とした。各研究レベルで多変量線形回帰分析と多変量Cox回帰分析を行った上で、制限付き最尤法(restricted maximum likelihood)により各研究データを統合。各研究で使用された尺度の違いを調整するために結果を標準化平均差に変換し、認知症の新規発症ハザード比も算出した。

認知機能が低下した高齢者に対する甲状腺機能検査を支持せず

 7万4,565例のうち、甲状腺機能正常は6万6,567例(89.3%)、顕性甲状腺機能亢進症は577例(0.8%)、潜在性甲状腺機能亢進症は2,557例(3.4%)、潜在性甲状腺機能低下症は4,167例(5.6%)、顕性甲状腺機能低下症は697例(0.9%)だった。ベースラインの年齢中央値は57~93歳で、女性は4万2,847例(57.5%)だった。

 認知機能に関するデータは、21件のコホートにおける計3万8,144例から得られ、追跡期間は11万4,267人・年(中央値1.7~11.3年)だった。

 認知症の新規発症に関するデータは、8件のコホート計2,033症例と対照群4万4,573例から得られ、追跡期間は52万5,222人・年(中央値3.8~15.3年)だった。

 解析の結果、甲状腺機能障害と全体的認知機能の間に関連は認められなかった。最も大きな差が認められたのは、顕性甲状腺機能低下症群と甲状腺機能正常群の比較で、横断解析におけるスコアの標準化平均差が−0.06(95%CI -0.20~0.08、P=0.40)、縦断解析における標準化平均差の上昇は0.11/年(同-0.01~0.23/年、P=0.09)だった。

 甲状腺機能障害と遂行機能、記憶、認知症リスクとの間に一貫した関連は認められなかった。

 今回の研究では、従来の研究の限界を克服するために、IPD解析を行い、甲状腺機能と認知機能、認知症の定義の標準化を図っている。van Vliet氏らは「潜在性甲状腺機能低下症/亢進症は、認知機能低下、新規認知症発症と関連していなかった。一方、認知症発症リスクにおける顕性甲状腺機能障害の役割については厳密な結論は下せない」と述べ、「今回の結果から、認知機能の低下した高齢者における甲状腺機能スクリーニングは支持されない」と指摘している。

(小路浩史)