北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所講師の松野啓太氏らの研究グループは、マダニが媒介する新たなウイルスを発見し、エゾウイルスと命名したとNat Commun(2021; 12: 5539)に発表した。エゾウイルスはナイロウイルス科に分類され、北海道内でこれまでに感染者が7例いたことが分かっている。野生動物からウイルス抗体が検出されたことから、道内では既に定着していると考えられるという。

発熱、血小板減少などの急性症状

 マダニはさまざまな病原体を媒介し、その病原体として北海道ではダニ媒介脳炎の原因となるダニ媒介脳炎ウイルスや、ライム病、回帰熱の原因となるボレリア属細菌が確認されている。西日本〜関東では日本紅斑熱の原因となるリケッチア属細菌に加え、近年では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の原因となるSFTSウイルスなどが問題となっている。世界各地のマダニから、ウイルスを含む新たな微生物が次々と発見されており、マダニには未発見の病原体が存在すると考えられる。

 松野氏らは、2019年に北海道でマダニと思われる虫に刺された後、発熱と下肢痛を主訴に受診した患者1例から過去に報告がない新規ナイロウイルスを検出し、国立感染症研究所刊行の病原微生物検出情報(IASR 2020; 41: 11-13)に報告した。今回の研究は、当該患者の症例報告を含む続報に当たる。

 2019年および20年に札幌市内の病院を受診した患者2例の検体からウイルスを分離培養した。いずれの患者もマダニに刺された後、数日〜2週間程度のうちに発熱、血小板減少などの急性症状を示していた。培養ウイルスの遺伝子解析の結果、2例とも未知のナイロウイルスに感染していたことが分かった。同氏らはこの新たなウイルスをエゾウイルスと命名した()。

図. エゾウイルス粒子の電子顕微鏡写真

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(北海道大学プレスリリースより)

今後の調査で分布状況や患者発生動向を明らかに

 松野氏らが、北海道立衛生研究所が保有するダニ媒介性感染症が疑われた248検体を遺伝子検査により後ろ向きに検討したところ、5つのエゾウイルス遺伝子陽性検体が見つかり、最も古い検体は2014年のものであった。前述の2例を合わせると2014〜20年の間に計7例のエゾウイルス感染者が発生していたことになる。

 これら感染者の共通点は、6〜8月にマダニに刺されてから数日〜2週間に発熱や食欲不振が始まり、受診した際にはSFTSでもよく見られる血小板減少、白血球減少、肝機能異常などの症状を示していたこと。全例が道内での感染が疑われており、うち4例にはエゾウイルスに対する抗体を保有していたことも分かった。

 道内の野生動物におけるエゾウイルスに対する抗体調査を実施したところ、エゾシカで0.8%、アライグマで1.6%の抗体陽性個体が見つかった。また、道内のマダニにおけるエゾウイルス遺伝子調査では、オオトゲチマダニ、ヤマトダニ、シュルツェマダニでそれぞれ3.7%、1.9%、1.30%がエゾウイルス遺伝子陽性であった。これらの結果は、エゾウイルスが他のナイロウイルス同様にマダニによって媒介されるウイルスで、既に道内に定着していることを示している。

 エゾウイルス感染症(エゾウイルス熱)の主症状である血小板減少などはSFTSや回帰熱に類似しているため、各地で診断目的にエゾウイルス検査体制を早急に整える必要がある。同氏は「今回の研究では北海道のみを対象としたが、本州の一部地域で実施した調査では野生動物からエゾウイルス特異抗体が確認されており、北海道以外の地域でもエゾウイルス熱患者が発生する可能性がある」と述べている。今後の調査でエゾウイルスの全国的な分布状況や患者発生動向を明らかにしていく予定だという。

(慶野 永)