神経難病の1つである脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する3剤目の治療薬で、初の経口薬となるリスジプラム(商品名エブリスディ)が今年(2021年)6月に承認され、先月(8月)発売された。9月27日に東京都で開かれたプレスセミナー(主催:中外製薬)において、東京女子医科大学遺伝子医療センターゲノム診療科特任教授の齋藤加代子氏は「治療薬が登場したことでSMAが認知されるようになった」と変化を歓迎する一方、SMAは初期症状に気付きにくく、診断が遅れるケースがあると指摘。発症年齢や側弯の状況にかかわらず経口薬が使用できるようになったSMA診療の実状を解説した。(関連記事「脊髄性筋萎縮症に初の経口薬が承認」「脊髄性筋萎縮症治療薬リスジプラムが発売」)

運動や筋力に必要な運動神経細胞が脱落

 SMAは、筋萎縮や筋力低下を来す遺伝性の神経筋疾患である。SMA患者では、筋肉を動かすために必要な運動神経細胞生存蛋白質をコードするsurvival motor neuronSMN)1の欠失または変異がある。さらに、SMN 1に類似したSMN 2でつくられる蛋白質のほとんどが不完全なため、SMA患者では運動神経細胞が変性・脱落する。その結果、支えなしでは座れない、うまく歩行できず転びやすい、四肢に力が入らず動かしにくい、舌や指先が細かく震えるなどの症状が現れる。

 リスジプラムはSMN 2のスプライシングを修飾し、機能性SMN蛋白質の産生を促進するSMN 2スプライシング修飾薬である。

 投与対象となるのは、発症年齢と運動機能の程度で分類される0~Ⅳ型(1)のうちⅠ~Ⅲ型と幅広い。

図1. SMAのタイプ

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 Ⅰ型は生後0~6カ月で発症し、支えなしで座れない、首が座らないなどの症状を呈し、人工呼吸器を要する重症型である。

 Ⅱ型は生後18カ月までに発症し、支えなしで座れるものの歩行は支えなしでは難しく、生涯車いすでの生活となる。

 Ⅲ型は生後18カ月以降に発症し、支えなしで歩行できるものの階段が上れないケースもある。

Ⅰ型・FIREFISH試験:29.3%が支えなしで坐位5秒間保持

 リスジプラムの承認は、Ⅰ型SMA患者対象の第Ⅱ/Ⅲ相FIREFISH試験および、Ⅱ/Ⅲ型SMA患者対象の第Ⅱ/Ⅲ相SUNFISH試験の成績に基づいて行われた。

 FIREFISH試験は多施設共同単群非盲検試験。第Ⅱ相試験(Part1)で週齢に応じて決定された用量の安全性および有効性を検討する第Ⅲ相試験(Part 2)には41例が参加した〔年齢は中央値5.3カ月(範囲2.2~6.9カ月)、女児53.7%〕。うち1例(2.4%)は日本人である。

 主要評価項目は、リスジプラム投与12カ月後における支えなしで坐位を5秒間保持できた患者の割合とした。評価にはBayley Scales of Infant and Toddler Development - Third Edition(BSID-Ⅲ)の粗大運動スケールを用いた。

 検討の結果、主要評価項目は、自然歴に基づき事前に設定した達成基準5%をはるかに上回る29.3%(90%CI 17.8~43.1%、P<0.0001、2)であった。

図2. FIREFISH試験(Part2)における主要評価項目の成績

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 副次評価項目のうち、投与12カ月後におけるChildren's Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders(CHOP INTEND)運動機能スケールの合計スコアがベースライン時から4点以上増加した患者の割合は、自然歴に基づき事前に設定した達成基準17%に対し、90.2%(90%CI 79.1~96.6%、P<0.0001)だった。

 また経口摂取能力を有する患者の割合は82.9%(同70.3~91.7%)で、齋藤氏は「Ⅰ型SMA患者は経管栄養または胃瘻に至るケースが多く、経口摂取できるのは極めて良好な結果である」と評価した。

 安全性に関しては、重篤な有害事象が24例(58.5%)報告されたがリスジプラムとの関連はなく、投与中止となった有害事象もなかった。

Ⅱ/Ⅲ型・SUNFISH試験:運動機能スコアが有意に改善

 SUNFISH試験は多施設共同ランダム化プラセボ対照二重盲検で実施された。対象は、日本人15例を含む2~25歳のⅡ/Ⅲ型SMA患者180例で、ランダム化後12カ月間はリスジプラムまたはプラセボを投与し以降、全例にリスジプラムを投与することとした。

 発症時の年齢中央値は、リスジプラム群が12.3カ月(範囲0~57カ月)、プラセボ群が12.8カ月(同6~135カ月)で、発症から同試験での投与を開始するまでの期間中央値はそれぞれ106.3カ月(同17~275カ月)、96.6カ月(同1~271カ月)だった。患者背景の特徴として、齋藤氏は「SMAの合併症である側弯症や股関節の亜脱臼または脱臼などがある、運動評価に不利な患者も含まれている」と説明した。

 主要評価項目は、投与12カ月後のMotor Function Measure(MFM)-32で評価したベースライン時からの運動機能スコアの変化量。

 検討の結果、MFM-32スコアの変化は、プラセボ群が-0.19(範囲-1.22~0.84)であったのに対し、リスジプラム群では1.36(同0.61~2.11)と有意な改善が認められた(群間差の推定値1.55、95%CI 0.30~2.81、P=0.0156、3)。

図3. SUNFISH試験(Part2における主要評価項目の成績

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(図1~3ともプレスセミナー発表資料)

 さらに、副次評価項目の1つであるSMA患者における上肢運動評価スケールRevised Upper Limb Module(RULM)で評価した投与12カ月後のスコア変化量は、プラセボ群の0.02(範囲-0.83~0.87)に対し、リスジプラム群では1.61(同1.00~2.22)と有意差が示された(群間差の推定値1.59、95%CI 0.55~2.62、調整後P=0.0469)。この点について、同氏は「上肢の機能が維持または改善されており、歩行できない進行型が多いⅡ/Ⅲ型SMA患者が日常生活を送る上でリスジプラムは有益である」と述べた。

 リスジプラムの主な副作用は悪心、口腔内潰瘍形成、上気道感染、頭痛(いずれも1.7%)で、重篤な副作用および投与中止に至った副作用は見られなかった。

治療薬があるのに確定診断に時間要する、疾患認知度のさらなる向上を

 以上の臨床試験成績を踏まえ、SMA治療の進歩について齋藤氏は「発症年齢や側弯症の状況にかかわらず、経口で治療ができるようになった」と述べた。

 またリスジプラムを含め治療の選択肢が増えたことで、以前に比べSMAが認知されるようになったという。しかしSMAは初期症状に気付きにくく、経過観察となるケースもある。さらにSMAは、ミオパチーや筋ジストロフィーなどの類似疾患との鑑別を要する。

 同氏は「SMAの確定診断に至るまでに、時間がかかっているのが実情である。治療薬が登場しても速やかに投与を開始できないケースが依然多いため、疾患の認知度をさらに上げる必要がある」と訴えた。

(田上玲子)