サイエンス・フィクション(SF)の想像力をビジネスに応用する動きが広がりつつある。SF小説として描いた未来を起点に、逆算して製品やサービスの開発計画に生かそうとする試みだ。新型コロナウイルス禍のような想定を超えた事態が現実のものとなり、日本企業も型破りな発想方法を取り入れ始めた。
 温暖化で海上生活を余儀なくされた人々の住居、デジタルで発生させた料理の香りを楽しめるマスク―。ソニーグループは今夏、社内プロジェクトから生まれたデザイン模型を一般向けに展示した。SF作家と同社の若手デザイナーが協力し、「2050年」「東京」「恋愛」をテーマに短編SF小説を書き上げ、その中に登場する製品・サービスを形にした。
 同社は従来、生活者目線でデザインのヒントを見つける実践的な手法を採ってきた。プロジェクトを担当したクリエイティブセンターの大野茂幹統括課長は「デザイナーとSF作家の発想は真逆なところがあり、最初は話がかみ合わないことが多かった」と明かす。
 絵を描くことは得意なデザイナーだが、人物が登場する物語を文章にすることには慣れていない。参加者からは「時代背景や人間関係まで気を配る面白さが分かった」との声が聞かれたという。
 こうした手法は「SFプロトタイピング」と呼ばれ、2010年代に米西海岸のIT企業を中心に広がった。人類の火星移住構想を掲げる米宇宙企業スペースX創業者イーロン・マスク氏をはじめとする著名起業家が、SFから影響を受けたことが知られている。
 ソニーのプロジェクトを支援した「WIRED Sci―Fiプロトタイピング研究所」は、これまでにインターネット広告大手サイバーエージェントとメディアの未来像を探る企画を手掛けたほか、地方自治体とともに先端技術を駆使した都市構想づくりに取り組んでいる。小谷知也所長は「SF作家の思考法を学んでビジネスに生かしてもらいたい」と語る。 (C)時事通信社