慶應義塾大学薬学部教授の長谷耕二氏、同大学医学部教授の金井隆典氏らは、腸内細菌由来の酢酸がインスリン抵抗性を改善し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症を抑制するとの結果を、Microbiome2021年9月16日オンライン版)に発表した。近年、さまざまな疾患領域で腸内細菌との関連を検証する研究が進められ、注目を集めているが、同氏らは今回の結果を踏まえ、宿主に有益な腸内細菌を増殖させる機能性食品プレバイオティクスや肝臓の特定分子を標的とする分子標的薬など「予防や治療法の開発につながることが期待される」としている。

注目されるNAFLD/NASHと腸内細菌との関連

 NAFLDは肝臓への脂肪の蓄積や肝肥大を特徴とし、肥満や糖尿病などのメタボリック症候群とも強く関連している。NAFLD患者の4分の1程度はNASHを発症し、その1~2割が肝硬変に至り、肝がんに進展する。

 そうした中、近年、腸内細菌がNAFLDの発症とNASHへの進行に寄与する重要な環境要因であることが示唆されている。両疾患の病態形成には腸内細菌の異常が関わっている可能性があり、腸内細菌は重要な治療標的の1つとされている。プロバイオティクスであるイヌリンは腸内細菌叢の組成を調節し、腸内微生物発酵を促進することが報告されているものの、NAFLD/NASHの治療法としては十分検討されていない。

 そこで、長谷氏らは、腸内細菌によるNAFLD/NASH発症への影響を検証するため、マウスに低脂肪/低フルクトース/低コレステロール食(通常食)または高脂肪/高フルクトース/高コレステロール食(NASH誘導食:イヌリン添加または無添加の2群)を与えて20 週間飼育し、対照群であるNASH誘導食(イヌリン無添加)群と比較し、プレバイオティクスであるイヌリンの効果を調べた。

プロバイオティクス摂取群で肝肥大を抑制、ALTが低下

 検討の結果、イヌリン摂取群では対照群と比べ肝肥大の抑制、血中中性脂肪の改善、血中のALT低下などが見られ、NAFLD/NASHの発症抑制効果が確認された。また、腸内細菌叢を解析した結果、イヌリン摂取群では、酢酸生産菌であるBlautia productaBacteroides acidifaciensが増加しており、腸管内および門脈血中の酢酸濃度が顕著に上昇していた。

 そこで、ヒトの消化酵素では分解できない難消化性デンプン(レジスタントスターチ)に酢酸を共有結合した機能性食品である酢酸化レジスタントスターチをマウスに与え、腸管内の酢酸濃度を高めたところ、NAFLD/NASHの発症が抑制されていた。これにより、腸内で産生された酢酸が肝臓に取り込まれることで病態を抑制していることが確認できた。

腸内細菌が産生する酢酸がインスリン抵抗性を改善

 酢酸の受容体としてFFAR2 (GPR43)とFFAR3 (GPR41)が知られている。このうち、長谷氏らは、GPR43を欠損させたマウスと正常マウスを比べたところ、GPR43欠損マウスでは肝肥大が増悪し、肝コレステロールが増加、肝障害マーカーであるALTが上昇するなど病態が悪化。イヌリンによるNAFLD/NASH抑制効果が消失したことが分かった。

図.イヌリン摂取によるNAFLD/NASH抑制効果

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(プレスリリースより抜粋、編集部作成)

 さらに、糖代謝、インスリン抵抗性についても検討したところ、GPR43欠損マウスでは野生型マウスに比べて、肝臓におけるインスリン抵抗性の増悪が認められた。一方、全身のインスリン抵抗性には影響を及ぼさなかった。

 以上の結果から、長谷氏らは「イヌリンの摂取が腸内細菌叢の組成に大きな影響を及ぼした。プレバイオティクスの分解によって腸内細菌が産生する酢酸は、GPR43を介して肝臓特異的にインスリン抵抗性を改善し、NALFD/NASHの病態形成を抑制していることが判明した」と結論。「酢酸の産生増強を目的とした効果的な次世代プレバイオティクスや肝臓のGPR43に対する分子標的薬など、NAFLD/NASHの予防・治療法の開発につながることが期待される」と展望している。

(小沼紀子)