長期の精神疾患患者における抗精神病薬の再発予防効果を検討する際には生存分析が用いられるが、この手法に疑義を唱える研究結果が報告された。英・University College LondonのJoanna Moncrieff氏らは、生存分析を用いて抗精神病薬の投与維持群と中止群を比較した2件のランダム化比較試験(RCT)の例を示し、正しい判断のためには、短期と長期のアウトカムは異なると仮定し長期追跡を行うとともに、投与中止による離脱症状が結果に影響する可能性を認識することが重要であるとBMJ Evidence-Based Medicine2021年9月23日オンライン版)に発表した。

長期検討において生存曲線が交差

【例1】初回エピソード精神病における抗精神病薬の再発予防効果/比例ハザード性と長期追跡

 初回エピソード精神病の患者を対象に、抗精神病薬の再発予防効果を投与維持群と中止群で比較した非盲検RCT。当初の追跡期間18カ月でのCox回帰生存分析では、両群間の再発のハザード比(HR)が期間によらず一定しており(比例ハザード性が成立)、18カ月時点の再発リスクは中止群では投与維持群の2.3倍に上った。

 しかし、その後7年まで追跡した結果、約3年の時点で両群の生存曲線が収束・交差。比例ハザード性が成立せず、3年時以降は投与維持群で再発リスクが高くなることが示された()。

図. 再発リスクの長期検討

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JAMA Psychiatry 2013; 70: 913-920

 ただし、中止群においては早期の再発率が高いため、log rank testの結果では投与維持群の方が再発は低リスクとなる可能性がある。このように、比例ハザード性が成立していた最初の18カ月間における再発のHRと7年間の累積再発率で示される再発リスクは同等でないが、log rank testを用いるとこの点が隠蔽されてしまう。

 また、生存分析のアウトカムは「再発までの期間」だが、患者や介護者が再発遅延という効果を重視するかどうか、あるいは、どの程度の遅延なら抗精神病薬の副作用とのリスク・ベネフィットバランスが取れるかに関するエビデンスはない。特に、この試験では抗精神病薬の長期使用が患者の社会機能を低下させる可能性が示されている。

 この試験は、短期と長期ではアウトカムが異なると仮定して長期追跡を行うことの重要性を提示している。試験の追跡報告では「全体のアウトカムとしては、最終追跡時点を含む各時点における累積再発率を検討した方がよいだろう」としている。

【例2】esketamineによる治療抵抗性うつ病の再発予防/離脱症状の認識

 esketamineは比較的新しい薬剤だが、類似薬のケタミンの娯楽的使用者では中止後に気分の落ち込みや不安などの離脱症状が見られ、これが再発と誤認される可能性がある。

 2例目の試験はesketamineの二重盲検プラセボ対照ランダム化治療中止試験だが、プラセボへの切り替え後に(esketamineの精神作用が失われるため)盲検性が失われる(プラセボ使用が患者に分かってしまう)可能性が高い。それにより治療中止に対する不安が生じ、心理学的因子として再発を促進することもある。

 同試験の最初の分析はKaplan-Meier法で行われ、log rank testでesketamine群とプラセボ群の再発率に有意差が認められた(P=0.003)。生存曲線は、HRに変動はあるものの交差はなかった。両群間の再発の最大リスク差はランダム化後8週間以内に発生しており、esketamine中止による早期の離脱症状を反映している可能性が示唆された。

 その後の生存分析では、生存曲線が約9カ月後の時点で交差することが示された(Lancet Psychiatry 2020 ; 7: 232-235。HRの推算にはCox回帰分析が用いられたが、生存曲線が収束するため比例ハザード性が成立せず、全体のHRをCox回帰分析で算出するのは不適切である。

 一方、両群間の有意差検定にはlog rank testが用いられ、再発リスクに有意差が示された(P=0.048)。この例も例1と同様に、早期離脱症状とみられる事象の発現以降に生存曲線が収束するという結果をlog rank testの結果が覆い隠してしまい、誤った判断を招く可能性があることを示している。

 以上から現時点での見解として、Moncrieff氏らは「長期精神疾患の患者における再発予防を目的とする介入試験に生存分析を用いるべきではない。χ2検定やロジスティック回帰などの統計学的手法を用い、それを補う形でKaplan-Meier曲線によりアウトカムのタイミングを示すべきである」と結論している。

(太田敦子)