歴代首相を含む多くの政治家への取材を通じて現代日本政治を分析してきた御厨貴東大名誉教授は11日までに時事通信のインタビューに応じた。岸田文雄首相について、安倍、菅両政権下で首相官邸に集中した権力を分散しようとしていると指摘。新型コロナウイルスの危機下で力を発揮し得るという見方を示した。主なやりとりは以下の通り。
 ◇岸田氏にオーラ
 ―岸田首相が就任した。
 大衆受けすることを言わず、生真面目で、それだけで首相になれるのかずっと疑問だった。今年は明らかにある段階からオーラが出始め、政治家として化けてくるプロセスを見た。
 ―危機に適しているか。
 自分の主張を強固に持って突き進むタイプが多い現代には一般的に合わない。だが、コロナ対応では安倍晋三元首相はほとんど何もできず、命令権と人事権を駆使した菅義偉前首相も失敗した。ある程度すべきことが分かってきて、一歩引いて官僚の発想を生かして政治が支えていこうとするのは、ベストとは言わないがベターな選択だ。
 ―菅氏は官房長官として危機管理に一定の評価があった。短命に終わったのはなぜか。
 菅氏は官房長官時代、各省が言うことをそのまま信用せず、課題ごとに官邸にチームをつくって、縦割りに横串を刺す手法だった。
 ただ、彼は中小企業の「おやじ」的な発想で、全部自分が見ようとした。その結果、どんどん官邸に案件が持ち込まれ、対応できなくなった。
 また、反論をした官僚を飛ばし、みんな黙らせてしまった。ワクチンと経済を同時進行で回すことができると思い込んだ。忠告してくれる本当の側近も持たず、誰も信頼できない中で彼が独断でやってきたのがこの1年だ。
 ◇人事で安倍、麻生氏分断
 ―岸田政権の陣容をどう見るか。
 松野博一官房長官はさほどリーダーシップに優れていると思えない。岸田氏は官房長官というポストが力を持ち過ぎたと考えているのではないか。だから官房長官に(安倍氏側近の)萩生田光一氏(経済産業相)を充てるわけにいかなかった。
 一方、官房副長官に木原誠二氏という自分の腹心を置き、幹事長に麻生派で政策通の甘利明氏を使った。今まで官房長官に集中していた権力を分散し、その上に乗ろうとしている。麻生派を重用しているが、安倍氏が期待する人はそれほど使っていない。安倍、麻生両氏を分断している。
 ―岸田氏は「国民の声を丁寧に聞く」と訴えている。
 踏み込んだ発言で、本当に聞いてくれるのかとみんな見ている。ただ、今のところ(何をするかについて)抽象的な物言いしかしていない。国民から、もっと具体的に言え、どっちなんだと迫られ、結局この人は同じだと見られてしまう。「国民の声を聞く」という言葉には二重性があって、いい方向に行けばいいが、悪い方向にも転ぶ。
 ―衆院選は何が問われるか。
 岸田氏は「新しい資本主義」をはじめいいことを言っているが、それが本当に実現できるのか。安倍・菅政権の路線を進むのか、それとも本当に独自の政権を築くのか。国民の勘でそこをどう見抜くかがポイントだ。 (C)時事通信社