米・University of Pennsylvania Perelman School of MedicineのMark D. Neuman氏らは、股関節骨折の手術を受ける50歳以上の歩行可能な患者1,600例を対象に、全身麻酔と脊椎麻酔を比較する多施設共同ランダム化比較試験(RCT)REGAINを実施。その結果、脊椎麻酔は60日後の生存率と歩行能力の回復に関して、全身麻酔との有意差はなく優越性は認められなかったと、N Engl J Med2021年10月9日オンライン版)に発表した。

米国、カナダの50歳以上、1,600例を対象

 高齢者に股関節骨折手術を施行する際に、全身麻酔と脊椎麻酔で歩行能力に及ぼす影響に差があるかについては、十分に検討されていない。

 観察研究によると、全身麻酔に比べて、脊椎麻酔では死亡、せん妄、主要な合併症のリスクが低く、入院期間も短いことが示唆されている。既報では、麻酔の種類による転帰の違いについて相反する結果が示されているが、多くは30年以上前に実施されたもので、現状を反映していない。

 そこでNeuman氏らは、2016年2月12日~21年2月18日に米国とカナダの46施設で、股関節骨折の手術を受ける50歳以上の歩行可能な患者1,600例(平均年齢78歳、女性67.0%、黒人7.6%)を登録。全身麻酔と脊椎麻酔の有効性を比較するRCTを実施した。

 対象を脊椎麻酔を受ける群(795例)と全身麻酔を受ける群(805例)に1:1でランダムに割り付けた。脊椎麻酔群の666例(83.8%)と全身麻酔群の769例(95.5%)が当初の割り付け通りの麻酔を受けた。

 なお、脊椎麻酔群のうち約15%が全身麻酔群に移行していた。

 主要評価項目は、ランダム化後60日時点での死亡、または自力もしくは歩行器や杖などを用いた(介助者なし)約10フィート(3m)の歩行困難などの複合とした。副次評価項目は、60日までの死亡、60日時点での歩行困難、せん妄、退院までの日数とした。

死亡または歩行困難は脊椎麻酔群18.5% vs. 全身麻酔群 18.0%

 解析の結果、複合主要評価項目である60日時点での死亡または歩行困難は、脊椎麻酔群で712例中132例(18.5%)、全身麻酔群で733例中132例(18.0%)に発生した〔相対リスク(RR)1.03、95%CI 0.84~1.27、P=0.83〕。

 副次評価項目である60日までの死亡は、脊椎麻酔群で768例中30例(3.9%)、全身麻酔群で784例中32例(4.1%)で発生(RR 0.97、95%CI 0.59〜1.57)。60日時点での歩行困難は、脊椎麻酔群で684例中104例(15.2%)、全身麻酔群で702例中101例(14.4%)で発生した(同1.06、0.82〜1.36)。せん妄は、脊椎麻酔群で633例中130例(20.5%)、全身麻酔群で629例中124例(19.7%)に発生した(同1.04、0.84~1.30)。また、退院までの日数中央値は、カナダの患者群では脊椎麻酔群で6日、全身麻酔群で6日、米国の患者群では脊椎麻酔群で3日、全身麻酔群で3日と同等だった。

データ欠損の多さが試験の限界

 以上から、高齢者の股関節骨折手術における脊椎麻酔は、60日後の生存率と歩行能力の回復に関して、全身麻酔に対する優越性は示されなかった。さらに、せん妄の発生率や入院日数は、両群で同程度だった。

 Neuman氏らは、同試験の限界として評価項目データの欠損の多さを指摘。「もともと脊椎麻酔群に割り付けられた患者の約15%が、脊椎ブロックが不可能であったなどの理由で全身麻酔に移行したことなどが、群間差の正確な検出に支障を来した可能性がある」と述べている。

(今手麻衣)