患者数が少なく、治療開発が困難な希少がん。国立がん研究センター中央病院は、希少がんの治療開発を推進するためにマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムのアジア・太平洋地域5カ国の10施設との国際共同前向きレジストリ研究MASTER KEY Asiaを開始する。希少がんの治療開発とアジア地域でのがんゲノム医療の加速化を目指すという。

アジアでは希少がんの個別化医療を含む診療体制が未整備

 希少がんの発症は人口10万人当たり年間6例未満と極めてまれであり、肉腫や消化管間質腫瘍(GIST)、小児がん、脳腫瘍、頭頸部腫瘍、中皮腫、原発不明がん、血液疾患など、200種近い悪性腫瘍が存在する。標準治療が確立しておらず予後不良である。

 一方で、希少がんの患者数は全がん種の約22%を占め、世界の新規がん患者の約半数はアジア地域の患者である。そのため、アジア地域で希少がんの臨床試験を実施していくことは大きな意義がある。しかし、アジア地域には①喫煙率が高い、②がん検診制度が未整備、③がんゲノム医療が普及してない―などの現状があるため、日本主導で研究体制を整備し、共同で臨床試験を実施する必要があるという。

 また、近年は個別化医療が提唱され、分子標的治療の指針となる遺伝子異常の検出が広く用いられるようなっていた。しかし、次世代シークエンサー(NGS)を用いたこれらの研究対象は主要ながん種であり、かつ多くが欧米で実施されてきた。

世界最大の希少がんデータベースをアジア・太平洋地域に拡大

 MASTER KEY Asiaは、同院が2017年から国内で実施している希少がんの研究開発およびゲノム医療を推進する産学共同プロジェクトで、世界最大の希少がんデータベースを構築しているMASTER KEY Projectをアジア・太平洋地域へ拡大するもの。希少がん患者の遺伝子情報や診療・予後情報などを網羅的に収集し、①研究の基礎データとなる大規模なデータベースの構築、②がん種を限定せず特定のバイオマーカー(遺伝子異常・蛋白発現など)を有する患者を対象に企業治験や医師主導治験を実施する―という2つの取り組みから成る。

 最初の試みとして、フィリピン・St. Luke's Medical Centerとマレーシアの4施設と共同で希少がんの患者検体を用い、同院で検体品質確認・中央病理診断・遺伝子解析をした結果を返却し、標準化を図る取り組みから開始するという。

 さらに、同院はわが国のがんゲノム医療の礎となった臨床研究TOP-GEARプロジェクトによる遺伝子パネル検査NCCオンコパネルの開発および先進医療での検証、希少がんセンターの立ち上げなどの知見を有しており、2020年にはアジア地域での臨床研究・治験実施体制整備を目的とする、アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業(ATLAS project)も開始している。MASTER KEY AsiaではATLAS projectとも連携し、アジアでの「臨床試験の基盤構築」と「臨床研究の実施」という2つの施策により希少がんの新規治療開発の推進に取り組む。

(安部重範)