日本では30万人以上の慢性腎臓病患者が透析治療を受けており、その大半を血液透析(在宅血液透析を含む)が占める。現在、透析治療の新たな選択肢として研究が進んでいるのが電解水透析だ。聖路加国際病院(東京都)、井上病院(大阪府)、理化学研究所などの共同研究グループは、血液透析に伴う頻度の高い深刻な合併症として知られる疲労感に対する電解水透析による軽減効果を検証。電解水透析開始から8週経過時点で重度疲労患者の主観的な疲労感がほとんど感じないレベルまで有意に低下した、とRenal Replacement Ther2021年10月16日オンライン版)に発表した。

電解水透析の治療患者は2,000人超に

 電解水透析とは、水の電気分解により陰極側に生じた水素を含有する透析液を用いる透析療法である。2021年4月時点で定期的に電解水透析を受けている患者数は2,000人超と推定されている。近年、透析に伴う疲労は透析中の酸化ストレスの亢進に関連し、電解水透析は疲労度と酸化ストレスを改善する可能性があると報告されている。これまで、電解水透析に関連した有害事象の報告はないという。

 日本の血液透析療法は優れた治療成績を誇るものの、患者に身体的・精神的な負担となっている。血液透析は治療の特性上、間欠的に体液の大きな変動を繰り返し、体に大きなストレスがかかり、40~80%の患者で疲労が報告されている。不快感と活動意欲の低下が認められ、QOLの低下に加え、心血管障害の発症の危険因子となる。重度の疲労感は生命予後を悪化させ、社会復帰を妨げることも報告されている。

 現時点では、血液透析に伴う疲労を抑える有効な対策は確立されていない。そこで研究グループは、抗酸化性が確認されている水素(H2)を含む透析液で行う電解水透析が重度の疲労感の軽減効果およびメカニズムを明らかにすることを目的に前向き観察研究を行った。

慢性維持透析患者95例を対象に効果を検証

 対象は、透析療法を血液透析から電解水透析に変更した慢性維持透析患者95例(平均年齢71.4歳、血液透析期間10.6年、男性54例、女性41例)。合併症として30.5%に糖尿病、20.0%に心血管疾患の既往歴があった。

 血液透析から電解水透析に変更前(電解水透析開始以前の2週間)、変更から2週間後、4週間後、8週間後と4ポイントで患者にアンケートを実施。主観的な疲労感の推移を調べるとともに、自律神経バランスの測定を行い、疲労感の変化と自律神経バランスとの関連を分析した。

 アンケートでは、患者に透析実施日および実施翌日(透析非実施日)の疲労状態を質問。疲労状態は、痛みの強度を尺度化・数値化する際に用いられるVisual Analogue Scale(VAS)を用いて評価し、VASスコアが4以上を「実質的疲労感有り」、4未満を「実質的疲労感なし」と判定した。さらに、独自の質問票を用いて疲労状態を4段階(グレード1:疲労なし、グレード2:軽度の疲労、グレード3:中程度の疲労、グレード4:激しい疲労)で判定した。有意差はP<0.05と設定した。

 透析当日のみ疲労感がある"透析反応タイプ"は38例(40.0%、グループA)、透析当日および透析実施翌日とも疲労感がある"慢性疲労タイプ"は11例(11.6%、グループB)、透析当日も透析実施翌日とも疲労感がない"疲労感のないタイプ"は46例(48.4%、グループC)であった。3群の患者背景に有意差はなかった。

疲労感軽減に自律神経バランスの変化が関与か

 解析の結果、8週後にグループAでは透析実施日にVASスコアが有意に低下したが、透析実施翌日に有意な変化はなかった。逆に、慢性疲労を呈したグループBでは透析実施日にVASスコアが低下する傾向があり、透析実施翌日には大幅な低下が観察された。グループCでは一貫した変化は見られなかった。

 これらの結果を踏まえ、研究グループは「電解水透析に変更後8週時点で、グループAでは透析実施日に、グループBでは透析実施翌日に有意な疲労感の消失が確認された」と結論。

 また独自の質問票による疲労の変化の推移に関しても、グループAの透析実施日およびグループBの透析実施翌日に有意な疲労の軽減が認められた(いずれもP<0.05)。

 さらに、自律神経バランス測定装置による測定を行い、データが入手できた68例(グループA 28例、グループB 7例、グループC 33例)のデータを解析。その結果、グループAの透析反応タイプではVASスコアの低下と自律神経バランス(交感神経/副交感神経)の変化との相関性が示された。以上から、疲労感の軽減には自律神経バランスの変化が関与している可能性が示唆された。

(小沼紀子)