長崎大学歯学部口腔保健学准教授の五月女さき子氏らの研究グループは、ビスホスホネート(BP)製剤や抗RANKLモノクローナル抗体デノスマブなどの骨修飾薬(BMA)を投与されているがん患者を対象に、薬物関連顎骨壊死(MRONJ)発症の危険因子とされる抜歯とMRONJとの関連を検討。その結果、抜歯を避けることが一般的なMRONJの予防治療において、むしろ抜歯を避けると顎骨壊死の発症率を有意に上昇させる、とSci Rep2021; 11: 17226)に発表した。これまで推奨されてきた定説を180°転換させる報告で、同氏は「早期に積極的に抜歯をした方が顎骨壊死の発症を予防できる」と結論している。

増加する顎骨壊死の発生

 骨粗鬆症やがん骨転移の治療で広く使用されるBP製剤やデノスマブなどのBMAの投与後に、抜歯などの歯科処置を行った患者では、頻度は低いものの重篤な副作用としてMRONJを発症する例があり、問題になっている。関連学会6学会が作成した「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理―顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016ー」(関連記事「顎骨壊死問題6学会の統一見解」)によると、日本口腔外科学会が2011~13年に実施した調査でBP製剤服用後に発症した顎骨壊死症(BRONJ)は4,797例と報告されている。

 顎骨壊死が生じると、顎の痛み、腫れ、膿が出るなどの症状が現れ、適切な治療を受けなければ病的骨折や咀嚼不全などを引き起こし、時には敗血症の原因になる場合もある。抗菌薬の投与など骨を残す保存的治療で治癒するケースはまれで、壊死骨を切除する手術が必要になることが多く、がんの治療で苦しんでいる患者の大きな負担となる。顎骨壊死を予防するには、BMAの投与をやめるなどの対処が必要で、がん治療と歯科治療の両立は困難であった。

 しかし、抜歯を避けることで顎骨壊死の発症が予防できるという報告はなく、国内ではむしろ顎骨壊死の患者数が年々急激に増加しているとされる。

抜歯群では非抜歯群より顎骨壊死の発症率が有意に低い

 そこで五月女氏は、BMA投与中のがん患者361例(平均年齢62.0歳、女性215例、男性146例)の361顎(上顎177、下顎184)を対象に、顎骨壊死発症と抜歯との関連を検討した。BMAの内訳はBP製剤ゾレドロネートが161例、デノスマブが189例、両剤(BPからデノスマブに切り替え)が11例だった。

 解析の結果、MRONJは33顎で生じた(上顎13、下顎20)。MRONJの累積発症率は経時的に増加し、1年目が8.1%、2年目が14.7%、3年目および4年目が18.2%、5年目が23.3%であった。

 多変量解析では、BMAの長期投与や歯周病などの局所感染と顎骨壊死発症に有意な関連が認められたものの、抜歯そのものは危険因子ではなかった。また、傾向スコアマッチングにより背景因子を調整して解析した結果、MRONJ発症率は非抜歯群と比べ抜歯群では有意に低かった。さらに、非抜歯群と比べ抜歯群ではMRONJを早期に発症する傾向が見られたが、有意差はなかった。

MRONJを生じさせない抜歯法の開発を

 以上の結果から、五月女氏は「本来抜歯が必要な歯を温存することは、かえってMRONJの発症を有意に増加させることが明らかになった」と結論。さらに「これまでポジションペーパーで推奨された予防策を180°転換させる知見。BMA投与中のがん患者で歯周病や根尖病巣などの感染源になりうる歯を有する場合は、早期に積極的に抜歯をした方がMRONJの発症を予防できる」との見解を提示。

 その上で、MRONJ発症リスクの軽減には、抜歯を含む積極的な歯科治療が重要であること、またBMA投与例でも休薬せずに、「必要ながん治療と歯科治療が両立できることが明らかになった」とし、「がん患者の健康増進やQOLの維持向上に果たす役割は大きい」と結論している。併せて「MRONJを生じさせない抜歯法を開発する必要がある」と付言している。

(小沼紀子)