研究活動を行う際に守るべき倫理および規範の基本概念である「研究公正」に対する研究者の関心や教育の機会、研究活動の実状については、これまで明確にされておらず漠としていた。兵庫医科大学臨床疫学講座教授の森本剛氏らは、全国の臨床研究医1,100例を対象に研究公正に関する大規模横断研究を実施。その結果、①多くの医師は研究公正に関する教育を受動的にしか受けていない②普段の研究活動において研究公正を意識している医師は半数程度③オーサーシップや研究組織の透明性などへの意識は低い④研究公正に関する学習が受動的であると不適切な研究活動につながりやすい―といった実態が明らかになったと、BMJ Open2021; 11: e052351)に発表した。

対象は経験5年以上の臨床研究医

 昨今、不適切な研究活動が世界中で散見され、研究者に対する研究公正および研究倫理教育の必要性が高まっている。そのため、多くの組織で研究公正や研究倫理教育が行われているが、従来の手法では効果に限界がある。

 そこで森本氏らは、研究公正に関する学習や意識、研究活動に関する実状を把握する目的で、症例報告を除く臨床研究を過去5年間に行った経験があり200床以上の医療機関に勤務する65歳以下の医師1,100例(大学病院または研究所所属35%)を対象に大規模横断研究を実施した。

77%は受講の動機が受動的

 その結果、研究公正および研究倫理教育の受講経験者は1,021/1,100例(93%)だった。そのうち、大学病院所属医師の381/384例(99%)に比べ、非大学病院所属医師は640/716例(89%)と有意に少なかった(P<0.0001)。受講動機(複数回答可)は、所属施設で受講が義務付けられているから(57%)、倫理審査に必要だったから(30%)という受動的なものが全体の77%を占めた。

 研究公正についての意識に関する質問では、受講後に研究公正を意識していた割合は54%だった。内訳を見ると、被験者や参加者の自発性と安全性の確保、データの適切な記録と保管、捏造・改竄・盗用のチェック、利益相反への意識は54~69%と、いずれも5割を超えていた。一方、適切な画像作成、オーサーシップの厳格化、研究組織の透明性への意識は16~36%と低かった。

 研究公正の制度や施策に対する認知度は、ヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針が43%、臨床研究法が37%、省庁・機関(文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会、日本医療研究開発機構)による研究公正の取り組みが30%といずれも低かった。また、不適切な研究活動である論文執筆時における他論文からのコピー&ペースト、論文作成に関与せず共著者になるギフテッドオーサーシップの経験については、いずれも11%と決してまれではなかった。

受動的な受講動機は不適切な研究活動につながる可能性

 多変量ロジスティック回帰分析の結果、研究公正および研究倫理教育の受講動機が受動的であることと、論文執筆時におけるコピー&ペーストの経験(オッズ比2.96、95%CI 1.57~5.59、P<0.001)、ギフテッドオーサーシップの経験(同1.79、1.03~3.12、P<0.04)との間には有意な正相関が認められ、研究公正および研究倫理教育の受講動機が受動的な医師は不適切な研究活動に関与しやすいことが明らかになった。

 以上から、森本氏らは「不適切な研究活動と研究公正および研究倫理教育の受動的な受講が関連していることが示唆された。これは臨床現場の印象と合致する」とした上で、「論文執筆時における他論文からのコピー&ペーストやギフテッドオーサーについての回答は本来なら避けたいもの。そのため、過小評価されている可能性が高く、研究公正に抵触する潜在的事案はより多いと推察される」と考察。さらに、「日本における研究公正教育は、所属施設で義務付けられている講演会の受講やe-learningなど受動的なものが中心。今後は、研究公正を推進させる能動的な教育法の導入が求められる」と付言している。

(比企野綾子)