食道がんの中で最も頻度が高い食道扁平上皮がんの遺伝的要因が明らかになった。国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野分野長の柴田龍弘氏らは10月27日、世界8カ国(日本、中国、イラン、英国、ケニア、タンザニア、マラウイ、ブラジル)による国際共同研究における食道扁平上皮がん症例552例の全ゲノム解析の結果をNat Genet2021年10月18日オンライン版)に発表。日本人の食道がん発症に、飲酒に伴う遺伝子変異機構が強く関与していることなどを明らかにした。

がんドライバー遺伝子と突然変異のパターンとの関連性を検討

 研究では、食道扁平上皮がんの発症頻度が異なる8カ国の計552症例(内訳は日本37例、中国138例、イラン178例、英国7例、ケニア68例、タンザニア35例、マラウイ59例、ブラジル30例)のサンプルを収集し、全ゲノム解析を実施した。解析後は、それらのデータから突然変異を検出。突然変異における一定のパターン(変異シグネチャー)を抽出し、地域ごと、臨床背景ごとにその分布に有意差があるか検討した。

 また、全ゲノム解析データから、がんの発生や進展に寄与するがんドライバー遺伝子を同定し、その突然変異と変異シグネチャーとの関連性を検討した。

日本人症例で飲酒に関連する変異パターンを多く確認

 発症頻度が異なる地域ごとに食道扁平上皮がんゲノムにおける変異数や変異パターンを比較した結果、それらに大きな違いは見られなかった。しかし、変異シグネチャーの分布を比較したところ、飲酒に関連する変異シグネチャーであるSBS16が、日本およびブラジルの症例で有意に多く認められた()。

図. 各地域のSBS16による突然変異数

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(国立がん研究センタープレスリリース)

 また、今回の解析により計38のがんドライバー遺伝子を同定。それらには、過去に報告されていたTP53CDKN2APIK3CA NFE2L2NOTCH1も含まれていたという。

 さらに、ドライバー遺伝子における突然変異と変異シグネチャーとの関連について検討したところ、飲酒歴のある症例ではSBS16がTP53の変異に多く見られることも明らかとなった。

 変異シグネチャーと遺伝子多型との相関については、エタノール分解代謝において重要な酵素であるALDH2の一塩基多型(SNP)の違いとSBS16が有意に相関することや、遺伝性乳がん・卵巣がんの原因遺伝子として知られるBRCA変異の有無と変異シグネチャーSBS3にも相関が見られた。

 これらの結果について、柴田氏らは「地域ごとに食道扁平上皮がんにおける発がん分子機構の特徴を明らかにすることができた。特に日本人症例では、飲酒に伴う遺伝子変異機構が強く働きTP53といったがんドライバー遺伝子の異常を誘発。食道扁平上皮がんを発症する機序が明らかになった」と説明。「この知見を日本人における食道がんの新たな予防法開発に応用するため、今後は飲酒に伴う変異誘発機構の解明を目指し研究を進めていく予定である」と述べている。

(陶山慎晃)