中国・University of Hong KongのAndrea OY.Luk氏らは、香港の2型糖尿病を合併する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者1,200例超を対象とした後ろ向きコホート研究で、各種の血糖降下薬とCOVID-19の重篤な臨床転帰との関連を検証。その結果、スルホニル尿素(SU)薬およびインスリン製剤の使用者では非使用者に比べ、集中治療室(ICU)入室、侵襲的機械換気、院内死亡の複合リスクが高かったが、メトホルミンおよびDPP-4阻害薬の使用者では複合リスクが低かったとBMJ Open2021;11:e052310)に発表した。ただし観察研究であるため、血糖降下薬とCOVID-19の臨床転帰との直接的な因果関係は証明できないとしている。

メトホルミンとDPP-4阻害薬では50%前後リスク低下

 対象は、2020年1月23日~21年2月28日に香港の公立病院に入院した18歳以上で2型糖尿病を合併するCOVID-19患者1,220例(年齢中央値65.3歳、男性54.3%)。入院前に使用していた血糖降下薬(重複あり)の内訳は、メトホルミンが737例(60.4%)、SU薬が385例(31.6%)、DPP-4阻害薬が199例(16.3%)、インスリン製剤が273例(22.4%)だった。

 主要評価項目はICU入室、侵襲的機械換気、院内死亡の複合エンドポイントとした。入院中の主要評価項目の発生は235例(19.3%)で、内訳はICU入室が187例(15.3%)、侵襲的機械換気の施行が110例(9.0%)、院内死亡が90例(7.4%)だった。

 年齢、性、糖尿病罹病期間、HbA1c値、喫煙、併存疾患、併用薬を調整した多変量Cox回帰モデルによる解析の結果、メトホルミンの使用者は非使用者に比べて主要評価項目とした複合エンドポイントの発生リスクが49%低く〔調整後ハザード比(aHR)0.51、95%CI 0.34~0.77、P=0.001〕、複合エンドポイントの構成要素別でもICU入室(同0.53、0.33~0.86、P=0.01)、侵襲的機械換気(同0.51、0.27~0.97、P=0.041)、院内死亡(同0.51、0.27~0.97、P=0.039)のリスクが低かった。

 DPP-4阻害薬の使用者も同様に、非使用者に比べて複合エンドポイント(aHR 0.46、95%CI 0.29~0.71、P<0.001)およびICU入室(同0.45、0.28~0.74、P=0.002)の発生リスクが低かった。

SU薬では1.6倍、インスリンでは6.3倍リスク上昇

 一方、SU薬(aHR 1.55、95%CI 1.07~2.24、P=0.022)およびインスリン製剤(同6.34、3.72~10.78、P<0.001)の使用者は、非使用者に比べて複合エンドポイントの発生リスクが高かった。

 以上を踏まえ、Luk氏らは「2型糖尿病を合併するCOVID-19患者において、メトホルミンおよびDPP-4阻害薬の使用は重篤な転帰のリスクを低下させた。一方、SU薬およびインスリン製剤の使用は予後不良の予測因子であった」と結論している。

 ただし、「観察研究であるため、交絡因子を除外し切れなかった可能性があり、血糖降下薬とCOVID-19の臨床転帰との因果関係を示すことはできない」と研究の限界を指摘。「例えば、BMIまたは肥満に関するデータは、欠落例が多かったので今回の解析には組み入れていない。また、メトホルミンの非使用者では、同薬が禁忌となる腎疾患や肝疾患などを併発していたことがCOVID-19の予後不良につながった可能性もある。さらに、研究対象となったインスリン製剤の使用者は、非使用者に比べてかなり高齢で、腎疾患や心血管疾患の合併率が高く、重要な重症度の指標である炎症マーカー値の上昇およびリンパ球数の減少が認められた」と説明している。

メトホルミンは過剰免疫反応を減弱か、DPP-4阻害薬は長期研究必要

 なお、DPP-4阻害薬に関しては、糖尿病を合併したCOVID-19入院患者に対するシタグリプチンの投与が死亡を56%減少、ICU入室を49%減少させたといったイタリアからの報告(Diabetes Care 2020; 43: 2999-3006)がある一方で、英国の大規模研究ではDPP-4阻害薬の処方例ではCOVID-19関連死の頻度が高かったといった報告(Lancet Diabetes Endocrinal 2021; 9: 293-303)もある。そのため、Luk氏らは「DPP-4阻害薬への長期曝露が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の予後改善につながるかは、さらなる研究が必要」と付言している。

 一方で、メトホルミンの免疫調節作用はヒトだけでなく細胞や動物モデルでも実証されており、「2型糖尿病に関連した重度の肺損傷およびサイトカインストームの重症化を引き起こすSARS-CoV-2による過剰な免疫反応を、メトホルミンが減弱させる可能性がある」と考察している。

(太田敦子)