カナダ・University of TorontoのMina Tadrous氏らは、同国オンタリオ州に居住する66歳以上の高齢者3万例超を対象に、覚醒剤を原料とする注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬などの精神刺激作用を有する処方薬(以下、精神刺激薬)について、使用に伴うリスクを検証。その結果、精神刺激薬の使用開始後30日の時点で非使用の場合と比べて心血管イベントのリスクが40%上昇したとJAMA Netw Open2021;4(10):e2130795)に発表した。オンタリオ州では2013年~17年に高齢者に対する精神刺激薬の処方率は35%上昇し、米国と同様の傾向が見られるという。研究グループは「高齢者に精神刺激薬を処方する場合は、安全面を考慮する必要があることを示唆している」としている。

使用開始後180日以降ではリスク上昇が見られず

 精神刺激薬は小児・若年成人においてADHDの治療薬として一般的に使用されているが、近年では高齢者においても抑うつ症状の治療や運動機能および認知機能の回復などを目的とする適応外使用が増加している。精神刺激薬の使用は心血管イベントのリスク上昇に関連することが指摘されているが、これまで高齢者において安全性は十分に検討されていなかった。

 そこでTadrous氏らは、オンタリオ州の医療データベースから、精神刺激薬(アンフェタミン、メチルフェニデート、リスデキサンフェタミン、デキストロアンフェタミンなど)を処方された66歳以上の高齢者(使用群)6,457例(男性49.1%、年齢中央値74歳)と、1:4の割合で傾向スコアによりマッチした精神刺激薬の非使用群2万4,853例(男性48.7%、年齢中央値74歳)を抽出し、精神刺激薬の使用開始後365日まで追跡した。

 主要評価項目は、心筋梗塞、脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)、心室性不整脈による救急外来受診または入院の複合心血管イベントとした。追跡期間中に発生した複合心血管イベントは計932例で、内訳は非使用群が820例(100人・年当たり3.66例)、使用群が112例(同5.11例)だった。

 Cox比例ハザードモデルによる解析の結果、使用群では使用開始後30日の時点で複合心血管イベントのリスクが非使用群に比べて40%上昇していた〔ハザード比(HR)1.4、95%CI 1.1~1.8〕。ただし、使用開始後180日(同1.2、0.9~1.6)および365日(同1.0、0.6~1.8)では有意差は認められなくなった。

心室性不整脈は3倍、脳卒中は60%のリスク増

 主要評価項目を構成する各要素の個別解析では、精神刺激薬の使用群において使用開始後30日の時点で心室性不整脈(HR 3.0、95%CI 1.1~8.7)および脳卒中またはTIA(同1.6、1.1~2.1)のリスクが有意に上昇していた。しかし、有意差は使用開始後180日および365日では認められなくなった。

 また、精神刺激薬の使用群では全死亡リスクが使用開始後30日の時点で有意に上昇していた(HR 2.4、95%CI 2.1~2.8)。しかし、180日ではリスク上昇が認められず(同1.0、0.8~1.2)、365日ではリスクが有意に低下した(同0.3、0.2~0.5)。

 以上を踏まえ、Tadrous氏らは「高齢者においては、精神刺激薬の使用開始後30日以内の早期に心血管イベントのリスクが40%上昇することが示された。このリスクは経時的に低下し、180日以上の長期使用によるリスクは認められなかった」と結論している。

 ただし、「心血管疾患の早期徴候(頻脈や動悸など)を示した患者が精神刺激薬の使用を中止し、実際には長期使用によるリスクを有していた患者が除外されてしまった可能性もある」として、結果の解釈には注意が必要であると指摘。その上で「高齢者は併存疾患の有病率が高く、薬物動態なども若年者とは異なるため、高齢者における精神刺激薬の安全性を個別に検討することが重要だ。さらに、併用薬との薬物相互作用、心血管イベント以外の有害事象、精神刺激薬を使用後の自殺傾向についても検討が必要だ」と付言している。

(太田敦子)