新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大抑制の切り札として期待される経口薬の臨床応用が、日本国内でも現実味を帯びてきた。11月4日には英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が、米メルクと米ベンチャー企業リッジバック・バイオセラピューティクスが共同開発を進めてきた経口抗ウイルス薬molnupiravirを世界で初めて承認。同じくCOVID-19に対する経口抗ウイルス薬の開発を手がける米ファイザーは、同月5日にpaxlovidの第Ⅱ/Ⅲ相試験EPIC-HRの中間解析結果を発表。重症化リスクを有する軽症または中等症で非入院のCOVID-19患者に発症3日以内に同薬を投与したところ、非投与群に比べ入院または死亡リスクを89%低減させるという驚異的な効果を示したという。

抗ウイルス薬リトナビルを配合し、血中で高い活性維持

 paxlovidはプロテアーゼ阻害薬のPF-07321332とHIVやC型肝炎などの治療薬である抗ウイルス薬リトナビルとの配合薬。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が自己複製に必要な酵素SARS-CoV-2 3CLプロテアーゼの働きを阻害してウイルス増殖を抑制するという特徴がある。リトナビルは薬剤の相互作用を利用して配合されているプロテアーゼ阻害薬の有効血中濃度を高く維持し、さらに抗ウイルス作用を強力にするためのブースター薬として使われることが多い。paxlovidについても、PF-07321332の分解を抑制し、代謝を遅らせて血中での高い活性維持が期待されるようだ。

 EPIC-HRの対象は、5日以内にSARS-CoV-2感染が確認された軽度から中等度のCOVID-19患者で、重症化リスクとなる背景や基礎疾患を最低1つ以上有する者。登録患者は北米、南米、欧州、アフリカ、アジアから目標3,000例の70%に達しており、45%は米国からの登録だった。登録患者をプラセボまたはpaxlovidを投与する群に1:1でランダムに割り付け、1日2回5日間投与した。今回は2021年9月29日までに登録した成人患者1,219例のデータを解析した。

安全性の面でも使いやすく

 中間解析では、発症3日以内にpaxlovidを投与された患者では、COVID-19による入院または死亡のリスクがプラセボと比べて89%低減した。また、登録後28日目までに入院した患者はpaxlovid群では0.8%(389例中3例)、プラセボ群で7.0%(385例中27例)だった。死亡例はpaxlovid群では報告がなかったのに対し、プラセボ群はで7例発生した。入院、死亡ともpaxlovid群で有意差が得られた(P<0.0001)。発症から5日以内に投与された患者でも同様の傾向が見られた。ランダム化後28日目までに入院した患者はpaxlovid群の1.0%(607例中6例、死亡なし)に対し、プラセボ群では6.7%(612例中41例、死亡10例)と有意差が認められた(P<0.0001)。

 安全性に関しては、28日目までにpaxlovid群では死亡例の報告はなかったが、プラセボ群では10例(1.6%)が死亡した。なお、有害事象の発現率はpaxlovidが19%、プラセボ群が21%、重篤な有害事象はそれぞれ1.7%、6.6%でほとんどが軽度だった。また、有害事象により試験中止に至ったのは2.1%、4.1%とpaxlovid群の方が少なかった。

有効性ではpaxlovidに軍配上がるも、適応患者が限定される可能性

 COVID-19の経口薬への期待が高まる中で、先述の通り、11月4日にMHRAが米メルクなどが開発した経口の抗ウイルス薬molnupiravirを承認。COVID-19に対する治療が大きく前進した。同薬はSARS-CoV-2の複製を阻害する点ではpaxlovidと共通しているが、作用機序が少し異なる。

 10月にmolnupiravirの第Ⅲ相試験MOVe-OUTの中間解析結果が発表。対象は5日以内にCOVID-19を発症した軽症または中等症患者775例で、登録時に少なくとも1つ以上の重症化リスクを有することが条件とされた。解析の結果、ランダム化から29日間に入院または死亡した患者の割合は、molnupiravir群が7.3%(385例中28例)、プラセボ群が14.1%(377例中53例)と、molnupiravir群で入院・死亡リスクを48%低下させた。重篤なものも含めた有害事象の発現率は両群でほぼ同等だった。

 日本国内でも早期承認が期待される軽症・中等度症のCOVID-19患者に対する経口薬に関しては、単純比較はできないが、現時点では有効性の観点から見ると入院・死亡に対し約9割と極めて高い低減効果を示したpaxlovidに軍配が上がっている状況だ。ただし、リトナビル配合薬を用いたHIVやC型肝炎の治療と同様、リトナビルの特性として併用注意薬や禁忌薬が多いため、他剤との併用時には相互作用に注意する必要がありそうだ。

 治療効果に違いはあるものの、経口薬という簡便な治療選択肢が登場する意義は大きい。日本でも承認されればCOVID-19治療にパラダイムシフトをもたらすことは必至だが、両薬の臨床試験に組み込まれた患者背景を踏まえると、重症化危険因子を有することが投与条件に盛り込まれることが想定され、COVID-19の診断を受けた軽症・中等症例全てに使用できるとは限らない点が課題になりそうだ。

(小沼紀子)