一般的なアルツハイマー病(AD)は60歳以降の老年期に発症するのに対し、40~50歳代で発症する例が多い家族性AD(FAD)。生まれつき遺伝的素因を持つADで、AD患者に占める割合はわずか1%にすぎない。だが、若くしてアミロイドベータ(Aβ)の蓄積が始まり比較的若年で発症し、遺伝子は子孫に受け継がれるため治療法の早期確立が切望されている。新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野の春日健作氏、教授の池内健氏、同志社大学生命医科学部の角田伸人氏、大阪大学精神医学教室講師の大河内正康氏の共同研究グループは、FAD患者由来の検体を用いてAβの産生メカニズムなどを解析。特殊なAβ43が産生するメカニズムを見いだし、発症年齢が早いほどAβ43の産生量が多いことなどを発見したと、Translational Psychiatry2021年11月3日オンライン版)に発表した。研究グループは「Aβ43の過剰産生がFADの早発化に関与していると考えられる」としている。

一般的なADではAβ42が、FADではAβ43が多い

 FAD発症に関係する遺伝子変異の探索は1990年代から世界中の医師や遺伝学者らによって行われ、原因遺伝子として、3つの遺伝子に変異が比較的多く見られることが明らかになった。プレセニリン1(PSEN1)とプレセニリン2(PSEN2)、そしてアミロイド前駆体蛋白質(APP)である。

 ADの発症に関わる神経毒性を持つAβは、APPがβセクレターゼとγセクレターゼの2種類の酵素による切断を受けて生成される。γセクレターゼによる切断により、凝集性(病原性)の高いAβが生成されることが知られている。Aβが規則的に産生される経路は2つあり、それぞれの経路でγセクレターゼの切断によりアミノ酸配列の長いAβから短いAβが産生されるという。

 一方、一般的なADとFADでは蓄積するAβの種類に違いが見られ、一般的なADではAβ42が多く見られるのに対し、FADではAβ43が多いとされる。研究グループは以前の研究で、軽度から中等度のAD患者、軽度認知障害(MCI)患者、認知機能が正常(健常人、NC)から採取した検体を調べ、それぞれの患者でγセクレターゼの活性が異なることを報告した。その結果を踏まえ、今回の研究では、FAD患者におけるAβの産生メカニズムについて検討し、Aβ43が多い理由について患者由来の検体を用いて検討を行った。

Aβ43の産生を亢進する機序を発見

 対象は、軽度から中等度のAD患者24例(50~86歳)、MCI患者19例(57~82歳)、NC21例(61~89歳)で、脳脊髄液(CSF)や部検脳を用いて、Aβ産生メカニズムを調べた。検体にはFAD患者6例のCSFが含まれていた。

 解析の結果、FAD患者から採取したCSFに複数の高濃度のAβ43が確認された。さらに、FADの遺伝子変異を有するγセクレターゼを発現させた培養細胞でも同様の結果が再現できた。

 また、FAD患者ではPSEN1の変異により特徴的なAβ43が産生されることを見いだした。これまで一般的なADではAβ40産生経路とAβ42産生経路が知られていたが、今回の研究で、PSEN1変異を有するFAD患者ではペプチドであるVIVITが産生され、Aβ43産生が亢進するメカニズムが存在することが判明した。VIVITの産生量は、FADの発症年齢と有意に相関し、発症年齢が低いほどAβ43の産生量が多く見られた。Aβ43の蓄積は臨床的な重症度にも影響することを発見した。

 今回の結果を踏まえ、研究グループは「今回発見したAβ43の過剰産生が、FADの早発化に関与していることが考えられる」と指摘。さらに、「Aβ43の過剰産生がFADの病態の中核となっている可能性があり、FADの診断や治療における新たな標的として臨床応用が進むことが期待される」としている。

(小沼紀子)