民間人だけで地球を周回する宇宙旅行が成功するなど、宇宙はますます身近な存在になりつつある。その一方で、微小重力や宇宙放射線などの宇宙環境が人体に及ぼす影響については不明な点が多い。東北大学大学院酸素医学分野准教授の鈴木教郎氏と同大学院医化学分野教授の山本雅之氏らの研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)および筑波大学との共同研究で国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟きぼうに31日間滞在させたマウスを解析。宇宙旅行により、腎臓において骨量、血圧、脂質代謝を制御する遺伝子の発現が変動する「宇宙腎」の働きの一端が明らかになったと、Kidney Int2021年11月9日オンライン版)に報告した(関連記事「金井飛行士が宇宙で実施した研究内容を報告」)。

活性型ビタミンD3濃度低下を裏付ける遺伝子発現量の変化

 宇宙の微小重力環境下では、骨格筋の萎縮および骨格筋線維タイプの変化が生じて骨や筋肉が急速に衰え、宇宙放射線による酸化ストレス、DNA損傷が惹起される。研究グループはこれまでに、こうした宇宙ストレスは生体内における環境応答型転写因⼦Nrf2の活性化により緩和されることを報告している(Commun Biol 2021; 4: 787)。

 そこで研究グループは今回、Nrf2欠損マウスと野生型マウスをISSの日本実験棟きぼうに31日間滞在させた後に地球へ帰還させ、両マウスから採取した検体を解析した。

 その結果、宇宙旅行後のマウスの腎臓では、線維芽細胞増殖因子23(Fgf23)の発現増加を介してビタミンD3の不活化に関わる24位水酸化酵素Cyp24a1の発現が有意に増加、ビタミンD3の合成に関わる1-α位水酸化酵素Cyp27b1の発現が有意に減少し、ビタミンD3によって活性化されるオステオカルシンを生成するBglapの発現が有意に減少することが認められた。これら遺伝子発現の変化は、宇宙環境下では血中活性型ビタミンD3濃度が低下し、骨量が減少するという従来の仮説を裏付けるものである。なお、遺伝子発現の変化とNrf2との関連は認められなかった。

 さらに、マウスの腎臓ではレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)に関与するレニン遺伝子Ren1の有意な発現増加が、肝臓および腎臓ではアンジオテンシノーゲン(Agt)の有意な発現増加が認められ、宇宙旅行後の環境に適応させ血圧を上昇させるためにこれら遺伝子の発現が増加することが示唆された。

 一方で、アンジオテンシン変換酵素(ACE)2の有意な発現増加も確認されたことから、RAASの過剰な活性化を回避し、血圧を調整する役割を腎臓が担っていると推測された。これら遺伝子発現の変化とNrf2との関連は認められなかった。

過剰な脂質を腎臓で処理

 宇宙環境下では、重力が極めて小さいために消費エネルギーが抑制される。宇宙旅行後のマウスの体内では脂質が蓄積し、血中脂肪酸濃度の上昇が見られた。それに伴い、野生型マウスの腎臓では脂質の代謝に関与するウリジン二リン酸-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)1Aアイソフォームの発現が有意に増加した。この知見から、腎臓でUGT1Aアイソフォームの発現を誘導して過剰に蓄積された脂質のグルクロン酸抱合を促進し、尿中に排泄していることが示唆された。

 鈴木氏は「マウスを用いた今回の研究により、宇宙旅行後に腎臓で骨形成や血圧、脂質の代謝・排泄に関与する遺伝子の発現量が変化することが明らかになった」と結論。また、Nrf2はUGT1Aアイソフォームの発現量増加に関連していることが示された。

 同氏は「微小重力をはじめとする劇的な環境変化に適応する際に、腎臓が中心的な役割を担っていることが示唆された」と述べるとともに、宇宙旅行時における腎機能管理の重要性を指摘。その上で、宇宙環境への曝露によって生じる「宇宙腎」のさらなる解明に向け、「研究を継続する必要がある」とコメントしている。

(渕本 稔)