米国神経学会(AAN)はアルツハイマー病(AD)治療薬の抗アミロイドベータ(Aβ)抗体aducanumabについて、同薬の使用に際し脳神経内科医が患者の協働意思決定を支援するためのポジション・ステートメント(倫理的指針、以下指針)を作成し、Neurology2021年11月17日オンライン版)に発表した。指針では、同薬は脳内の異常蛋白質Aβを減少させる一方で、Aβの減少が患者に臨床的ベネフィット(認知機能の改善)をもたらすかはいまだ不明」と断じた。その上で、同薬投与例ではMRIで観察されるアミロイド関連画像異常 (ARIA)のリスクがあり、3割で脳浮腫、2割で脳微小出血が認められたことから「頻回なMRI検査によるモニタリングが必要なことを患者に伝える必要がある」と指摘。さらに薬剤費が年間5万6,000万ドルと高額なため、「患者やその家族がリスクとベネフィットについて、十分な情報を得た上で意思決定できる情報を提供すべき」としている。

欧州の承認に暗雲、EMEAの専門委員が承認に否定的な見解

 aducanumab(米国商品名Aduhelm)は、バイオジェンとエーザイが共同で開発したAD治療薬。今年(2021年)6月に米食品医薬品局(FDA)が条件付きで迅速承認した(関連記事「〔詳報〕アルツハイマー病新薬aducanumab」。ADの原因物質の1つと考えられているAβを標的とした抗Aβ抗体で、脳内のAβを除去し臨床症状の悪化を抑制する初の治療薬として期待されている。FDAは承認条件としてランダム化比較試験(RCT)の実施を求めている。

 aducanumabの有効性については、2件の第Ⅲ相試験(ENGAGE、EMERGE)でADの初期段階(軽度認知障害および軽度認知症)の患者3,482例を対象に検討。認知機能低下・臨床症状の抑制効果をプラセボと比較した結果、「主要評価項目が達成される可能性が低い」との結論に至り、2019年3月に試験中止が発表された(関連記事「認知症薬の最有力候補が開発中止に」)。

 その後、FDAとの協議に基づき、試験中止後に新たに利用可能となったデータを追加し、18カ月の試験期間を終了した被験者のデータを解析。EMERGE試験では主要評価項目で有意な結果が示された一方で、ENGAGE試験では主要評価項目を達成できず、2件の試験結果が異なったことで議論を呼んだ。

 FDAの諮問委員会では昨年年11月、aducanumabの有効性を証明するエビデンスが不十分だとして承認を支持しない意見が大勢を占めた。それにもかかわらず、今年6月にFDAが承認を認めたため、承認に否定的であった諮問委員3人が判断に抗議する形で相次いで辞任したと報じられた。

 さらに今年11月17日、米バイオジェンとエーザイは欧州医薬品庁(EMEA)の医薬品委員会(CHMP)によるaducanumabの製造販売承認の審査状況について、「否定的な見解を受領した」と発表。CHMPによる正式な勧告は、今年12月13~16日に開催されるCHMPミーティングで採択される予定だが、欧州で承認が見送られる可能性も出てきた。

重大な安全性の懸念、3人に1人に脳浮腫、5人に1人に脳内微小出血

 aducanumabの別の問題として指摘されたのが、脳浮腫(ARIA-E)や微小脳出血(ARIA-H)を含むARIAの出現という安全面での懸念だ。処方時の警告として、MRIで観察されるARIAおよび血管浮腫や蕁麻疹などの過敏症反応のリスクを明記し、注意喚起を行っている。

 aducanumabを1回以上投与した3,000例の解析において、ARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)は最も多く報告された有害事象であり、発現率はプラセボ群の10%に対し、aducanumab投与群では41%だった。

 ARIA-Eはaducanumabの投与群では35%、プラセボ群では3%に認められた。特とアポリポ蛋白E(apoE)-ε4対立遺伝子との関連性が高いことが報告されており、apoE-ε4保有者で42%、非保有者で20%だった。一方、ARIA-Hの出現頻度はaducanumab群で21%、プラセボ群で1%だった。

 ARIAに伴う典型的な症状として頭痛(発現頻度は13%)の他、せん妄、精神状態の変化、見当識障害(各5%)、めまい/回転性めまい(4%)、視覚障害(2%)が認められている。これらを踏まえ、処方時にはARIAが生じた一部の患者で浮腫に加え脳の内部または表面に小さな出血の斑点が現れることがあり、aducanumabの処方前および治療中はMRI検査でモニタリングし、ARIAについて確認するよう求めた。

高額な経済的負担について患者と家族への説明責任を負う

 また、aducanumabは薬剤費が高額な点も問題として挙げられている。年間薬剤費は5万6,000ドル(約640万円)、MRIなどの画像検査など治療費も含めると年間10万ドル(約1,140万円)を超える可能性があるとされる。

 そのため、指針では患者および家族に下記の点を伝えるべきと記載している。

1. 中等度または進行したAD患者/脳内にAβの蓄積が見られない患者にaducanumabで治療を行う十分な根拠はない
2.aducanumabはADを治癒に導いたり、認知機能を回復させない
3.潜在的な副作用やMRI検査によるモニタリングを頻回(治療前と後)に行う必要がある
4. 脳神経内科医は患者や家族に対し、aducanumabによる治療を行う場合には、年間5万6,000ドルという高額な費用を要し、経済的な負担を伴う可能性があることを説明する責任を負う
5. aducanumabの臨床試験においては人種的、民族的多様性データが不足しており、過小評価されている集団や患者に対する有効性や安全性のデータが欠如している点をインフォームド・コンセントで開示する必要がある

(小沼紀子)

変更履歴(2021年11月24日):記事の一部を修正しました