厚生労働省は12月24日に製造販売を特例承認した米・メルク開発の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口薬モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)について、本日(27日)から全国の指定の医療機関や薬局に20万人分を配送し、使用可能にする。重症化リスクが高い軽症~中等症のCOVID-19患者に対する国内初の経口薬。動物試験で胎児毒性が報告されているため、妊婦や妊娠している可能性のある女性には禁忌となる。使用に際しては、安定供給が難しいため、一般流通は行わず、当面の間は厚労省が保有し、投与対象となる患者が発生または発生が見込まれる医療機関や対応薬局に配分し、無償譲渡する。推奨される投与対象者や使用上の注意点、処方までの流れなどをまとめた。

経口のRNAポリメラーゼ阻害薬、入院・死亡リスクを約30%低

 モルヌピラビルの日本国内での販売業者であるMSDは、日本政府が160万回分の供給を受けることで合意しており、そのうち20万回分を政府に納入済みだ。

 モルヌピラビルはRNAポリメラーゼ阻害薬で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)におけるRNA依存性 RNAポリメラーゼに作用することにより、ウイルスRNAの配列に変異を導入しウイルスの増殖を阻害する。

 重症化リスクのあるCOVID-19患者に対するモルヌピラビルの有効性と安全性を検証した臨床試験は、日本国内の3施設を含む20カ国で実施された(目標症例数 1,550 例)。全ての被験者(1,433例)を対象とした最終解析の結果、発症5日以内のモルヌピラビルの治療開始で入院・死亡例はプラセボ群の9.7%に対し、モルヌピラビル群で6.8%と、相対リスクが 30%減少した。死亡例はそれぞれ1.3%、0.1%とモルヌピラビル群で少なかった。

 中間解析では、発症5日以内の治療開始によりプラセボ群の重症化(投与開始後29日目までの入院および死亡)が14.1%、モルヌピラビル群では7.3%と相対リスクの48%減少が発表されたが、その後の最終解析で下方修正した。

 安全性に関しては、副作用として、下痢、悪心などの胃腸障害、浮動性めまい頭痛などの神経系障害が1%以上5%未満と報告された。頻度はさらに少ないが、発疹、蕁麻疹などの皮膚および皮下組織障害が1%未満で認められ、頻度不明だが中毒性皮疹の出現が報告されている。

 MSDによるとin vitroでの検討で、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、ラムダ株、ミュー株、オミクロン株といったSARS-CoV-2変異株に対して、野生株と同程度の抗ウイルス活性が認められている。

対象は61歳以上、活動性のがん、CKD、COPD患者、糖尿病など

 モルヌピラビルの用法・用量は、18歳以上のCOVID-19患者に1回800mgを1日2回、5日間投与する。症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。また、SARS-CoV-2ワクチンの被接種者は臨床試験で除外されたため、ブレイクスルー感染での重症化予防などの有効性を裏付けるデータはない。

 モルヌピラビルの投与が考えられる対象者については、日本感染症学会が今年(2021年)12月24日に公開した「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第11報」で、同薬の臨床試験における選択基準等に基づき、①61歳以上、②活動性のがん(免疫抑制または高い死亡率を伴わないがんは除く)、③慢性腎臓病(CKD)、④慢性閉塞性肺疾患(COPD)、⑤肥満(BMI 30kg/m2以上)、⑥重篤な心疾患(心不全、冠動脈疾患または心筋症)、⑦糖尿病、⑧ダウン症、⑨脳神経疾患(多発性硬化症ハンチントン病重症筋無力症など)、⑩コントロール不良のHIV感染症およびAIDS、⑪肝硬変などの重度の肝臓疾患、⑫臓器移植、骨髄移植、幹細胞移植後―を挙げており、「投与する意義が大きい」とした。

妊婦には禁忌、妊娠可能な女性は投与中に避妊を

 妊婦や妊娠している可能性のある女性には投与禁忌となったが、これは動物を用いた非臨床毒性試験において、胎児の体重減少、流産、奇形などの胎児毒性が報告されたことを踏まえたもの。授乳婦に対しては、「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること」とした。なお、臨床試験では参加者に対しては、服用中および服用後4日間の避妊を行い、授乳を避けることが指示されていた。

 そのため、添付文書の「特定の背景を有する患者に関する注意」として、生殖能を有する者、具体的には妊娠可能な女性に対しては、「投与中および最終投与後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること」と注意喚起が行われている。

薬局に行かず自宅に配送、一部の病院や薬局で在庫配置も可能に

 モルヌピラビルは、症状が出てから5日以内に服用することが推奨されているが、提供方法としては、医療機関の入院患者、往診、外来患者、外来で処方され帰宅後に対応薬局から配送する、などが想定されている。SARS-CoV-2陽性例が周囲との接触を極力避けるため、患者が薬局に行かずに自宅や宿泊療養施設に配送できる仕組みを整備する。

 厚労省は12月24日に発出した都道府県に対する事務連絡で、感染対策の観点から「患者が薬局を直接訪問することは避けるようにしてほしい。医療機関でも本薬を処方せず、薬局から患者に提供する場合は、医療機関は患者に帰宅を指示した上で、患者が希望する対応薬局に処方箋と適格性情報等のチェックリストを送付し、処方箋を受け取った対応薬局は患者の自宅に本薬を配送することが望ましい」とした。

発注から1~2日で納品可能に

 いずれの方法でもモルヌピラビルを必要とする医療機関や対応薬局は、厚労省が供給を委託したMSDが開設した「ラゲブリオ登録センター」への登録が必要で、同センターを通じて配分依頼するよう求めた。院内処方、院外処方のいずれにおいても、原則、発注後1~2日程度で配送に協力する医薬品卸から薬剤が納品されるという〔日曜日、12月30日、来年(2022年)1日1日~2日を除く〕。ただし、迅速処方を可能にする措置として、一定の要件を満たし、都道府県が選定した医療機関については、一定数の在庫配置も可能にした。さらに、都道府県がリスト化した対応薬局に対しても一定数の在庫配置を可能とした。

 モルヌピラビルは1ボトル当たり40カプセル(服用時には1日2回4カプセルずつ内服、5日分)の薬剤が封入されている。薬剤は室温保存で有効期間は24カ月。

 厚労省は同薬の供給量は限られていることから、医療機関や対応薬局に対し「COVID-19患者の治療に備えた過度な在庫や、必要以上の配分依頼は控えるよう、配慮をお願いしたい」としている。

 なお、モルヌピラビル同様、早期承認に期待がかかるファイザーが申請中のCOVID-19に対する経口薬のpaxlovidは3CLプロテアーゼ阻害薬であり、異なる作用機序を有する。

(小沼紀子)