超高齢社会に入った日本では、認知症患者数は増加の一途をたどっている。認知機能低下にはさまざまな要因が複雑に絡み合っているが、食事や生活習慣の改善が予防につながることが明らかになりつつある。食から認知機能について考える会は12月14日、「食」を楽しみながら認知機能維持・向上を目指すことをテーマにオンラインセミナーを開催。加齢や環境が認知機能に与える影響と食事による予防効果について、順天堂大学大学院泌尿器外科学教授の堀江重郎氏が講演した。

認知機能低下は40歳代から、早めの対策を

 堀江氏はまず、高齢者に介護が必要となる主な原因は認知症が18.1%(男性14.4%、女性19.9%)で最も多いとの内閣府のデータを示し(2021年版高齢社会白書)、「健康寿命の延伸には認知機能低下を予防することが重要である」と訴えた。一方で、認知機能低下は40歳代から始まるという報告もあることから(Arch Clin Neuropsychol 2012; 27: 389-397)、「既に進行している認知症を改善させることは極めて困難である。対策は非常に早い段階から取り組んでいかなければならない」と強調した。

 その上で、認知機能が低下する主な要因を整理。認知機能低下には、脳神経細胞の老化や性ホルモンバランスの変化といった加齢に伴う生理的な変化、喫煙や運動不足などの生活習慣、気温や日照時間などの生活環境などさまざまな要因が考えられる()。

表.認知機能低下の要因

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冬季は夏季に比べて認知機能が低下、性ホルモンが関係か?

 中でも堀江氏は加齢に伴う性ホルモンの変化に注目し、認知機能低下との関係を論じた。性ホルモンバランスの加齢変化は男女で異なり、女性では閉経を境に女性ホルモンであるエストラジオールの分泌量が急激に減少。それに伴い、自律神経系や精神機能などが不安定になる更年期症状が現れるが、認知機能にも一定の影響が及ぶことが明らかになっている。一方男性の場合、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量は40歳代以降徐々に減少するものの、変化の度合いは個人差が大きく、70~80歳代の高齢者でも若年者と同等のテストステロンが分泌されていることがあるという()。

図.加齢に伴う性ホルモンバランスの変化

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(表、図とも堀江重郎氏提供)

 テストステロン分泌量の減少は男性更年期障害(LOH症候群)と関連し、性機能の低下、肥満などに加え、うつや認知機能低下も起こりうる。同氏は、テストステロンの分泌量には運動・睡眠・食事などの生活習慣とストレスが関与しているとし、中でもビタミンDがテストステロン生成を増加させる栄養素であることを強調。夏季に比べて冬季は認知機能が低くなり、その差は約5年分の老化による変化に相当するという報告を紹介し(PLoS Med 2018; 15: e1002647)、「日照時間はビタミンDの合成に深く関わっている。日照時間が短い冬季に認知機能の低下が認められるのは、テストステロンの分泌量が影響しているのではないか」と考察した。ビタミンDを多く含む食品としてサケなどを挙げ、魚類を積極的に摂取することを推奨した。

効果的な食生活の習慣化で心身の充実を

 また、久山町研究(福岡県)や大崎コホート研究(宮城県)などの日本の疫学研究に言及し、「これらの研究から、認知症対策には食生活の改善が有効であることが明らかになっている」と説明。認知症予防につながるエビデンスがある食品として、発酵食品、緑黄色野菜、青魚、オリーブオイル、ナッツ類などを挙げつつ、「同じ種類の野菜や肉であっても、含まれる栄養素は栽培・飼育方法などにより大きく異なる。不足している栄養素はサプリメントや機能性表示食品で補うことも重要である」とし、乳由来のペプチドであるβラクトリンが、記憶力の改善や前頭前野の脳血流の増加に効果的であると紹介した。そして、「認知機能対策は無理なく自分のペースで続けることが肝要。効果的な食生活などを習慣化することで、10年後、20年後のWell-being(心身の健康・充実)につなげてほしい」と結んだ。

(中原将隆)