全国で唯一、卒業資格が取れる東京都千代田区立神田一橋中学校の通信制が、2022年度も存続することになった。ただ一人の在校生が卒業予定のため、休校の危機を迎えたが、対象年齢を広げて生徒を確保。堀越勉校長は「学びたいという高齢者のニーズに応えていきたい」と話す。
 通信制中学は、戦後の混乱で中学を卒業できなかった人向けの教育機関。普段は自宅学習を行い、月2回登校して指導を受ける。卒業証書をもらえる「本科生」の入学対象は「尋常小学校卒業者や国民学校初等科修了者」で、22年度は「満88歳以上」の人となる。ただ、これ以外の人も希望する教科を学ぶ「別科生」なら入学できる。
 区の教育委員会が中学で十分学べなかった「満65歳以上の都内在住・在勤者」を対象に別科生を募集したところ、67~91歳の16人が応募。本科生の応募は無く、「本科生のみだったら休校になっていた」(担当者)。
 応募者の多くが学び直したいという人で、「文学を味わえる国語力を身に付けたい」「読み書きができるようになりたい」との声が寄せられた。
 文部科学省の「学制百年史」などによると、通信制中学は1948年度に始まり、神田一橋中も同年度に教育課程を設けた。80年度に9教科全ての履修が可能となり、卒業資格を得られるように。2020年度までに701人が卒業または一部教科を修了した。
 入学対象年齢の上昇と共に生徒は減り、3年生の松村節子さん(91)だけになった。それでも松村さんは「楽しくてしょうがない。勉強し続けたい、何回でも」と声を弾ませる。女学生の頃、勤労動員で特攻隊の砲弾を削る仕事を担い、学業に専念できなかった。新聞で学校の存在を知り、「こんなありがたい学校があるのか」と入学した。
 17年には、同校の生徒らを追ったドキュメンタリー映画「まなぶ 通信制中学 60年の空白を超えて」が公開された。太田直子監督は21年10月の上映会で、「学びたいという気持ちは社会が保障すべきだ」と訴えた。
 平日夜に授業を行う夜間中学もあるが、仕事や体調などの事情で毎日通えない人もいる。神田一橋中の存続に向け署名活動に取り組んだ「夜間中学校と教育を語る会」の庄司匠さんは、「夜間中学に通信制中学を併設できるよう制度を改善してほしい」と求めている。 (C)時事通信社