上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異は日本人の非小細胞肺がん(NSCLC)症例の多くで確認され、治療薬としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が広く使用されている。しかし、投与開始20カ月でがんが抵抗性を獲得し、その後の治療が困難となるケースが多く見られる。近畿大学内科学腫瘍内科部門講師の米阪仁雄氏らは、第一三共との共同研究でEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの新たな治療法の開発につながるHER3遺伝子の発現異常を発見。抗HER3抗体薬物複合体(ADC)のパトリツマブ デルクステカンとEGFR-TKIのオシメルチニブ(商品名タグリッソ)の併用が、治療に有効である可能性があるとClin Cancer Res2021年12月17日オンライン版)に発表した。

EGFR-TKIの継続投与後、HER3が顕著に増加

 米阪氏らはEGFR変異陽性NSCLC 48例を対象に、EGFR-TKI治療開始前の腫瘍組織と治療無効後の腫瘍組織を比較。HER3発現の状態を免疫組織染色法で調べた他、次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子解析を行った。

 その結果、治療無効後の腫瘍組織でHER3の発現増加が認められ、特にEGFR-TKIを継続投与した例で増加が顕著だった(図1)。遺伝子発現パターンの解析結果から、EGFR-TKIによる細胞内のPI3K-AKT生存シグナルの阻害が、HER3発現増加の要因であることが示唆された。

図1.腫瘍組織におけるHER3発現例

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2剤併用でがん細胞増殖に強力な抑制効果

 続いて前臨床試験として、EGFR変異陽性NSCLC細胞に対するパトリツマブ デルクステカンとオシメルチニブによる薬剤感受性試験を行った。すると、パトリツマブ デルクステカン単剤およびオシメルチニブ単剤はそれぞれ一定のがん細胞増殖抑制効果を示し、両薬剤を併用するとより強力に増殖を抑制するという結果を得た(図2)。

図2.肺がん細胞株を用いた薬剤感受性試験

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(図1、2とも近畿大学プレスリリースより引用)

 米阪氏らは、「オシメルチニブがHER3の発現を増加させ、HER3を治療標的とするパトリツマブ デルクステカンの抗腫瘍効果を高めていると考えられる。併用治療がEGFR変異陽性NSCLCに有望であることを示す結果」としている。

 なお現在、第一三共はEGFR変異陽性NSCLC症例を対象に、パトリツマブ デルクステカンとオシメルチニブの併用療法に関する国際共同治験を実施中。

(中原将隆)