がんを乗り越え、生きている喜びや苦みを分かち合うビールを造ろう。こんな試みが闘病を経た「がんサバイバー」有志で進められている。友人や仲間と飲み交わすことの多いビールを通じ、経験者だからこそ感じる人とのつながりや命がある幸せを再確認する活動だ。来月には試作品が完成し、8月の発売を目指している。
 参加者は、がん患者の就労支援組織「CSRプロジェクト」を中心とした働くがんサバイバー。新型コロナウイルス感染拡大を考慮し、約70人が3回にわたってオンライン上で味やパッケージについて議論を重ねた。
 「苦しい治療を乗り越えた解放感を表したい」「生きる幸せ、喜びを分かち合いたい」「旅立った仲間と乾杯したい」。多くの意見やイメージから試作を重ねた結果、ほろ苦く、爽やかな後味と香りのビールに決まった。味わいなどを調整し、サッポロビールのオンライン通販で売り出す。商品化には消費者のアイデアを基にビールを造る同社の枠組み「ホッピンガレージ」を活用。活動の思いを記した冊子を添付する予定だ。
 きっかけは2019年6月、がんサバイバーら約50人で開いた飲み会だった。がん経験者は飲酒できないと思われがちだが、主治医の了承があれば許される。参加したサッポロビール人事部の村本高史さんは頸部(けいぶ)食道がんで声帯を切除した。仲間が酒を飲み語り合う姿に、村本さんは「人の喜怒哀楽に寄り添えるビールの特性は今回の取り組みにぴったりだ」と話す。
 CSRプロジェクトで取りまとめ役を務める桜井なおみ代表理事は「お世話になった医療者や親族、亡くなったがん仲間の家族などに送り、連絡するきっかけになれば」と期待する。たくさんの思いが熟成したビールを味わうことを通じ、「独りじゃない、心はつながっていると実感してもらいたい」。村本さんと桜井さんはこう語り、笑顔を見せた。 (C)時事通信社