多動・衝動性と不注意を二大症状とする注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、18歳以下の約5%、成人の約2.5%に見られると報告されている。名古屋大学病院親と子どもの心療科准教授の高橋長秀氏らは、浜松医科大学と共同で「浜松母と子の出生コホート研究(HBC Study)」の登録児800例超の全ゲノムを解析。その結果、8~9歳児では入眠時刻が遅いとADHDの症状が現れやすいこと、睡眠習慣がADHD症状に及ぼす影響の程度は児が持つ遺伝要因によって異なることが示されたと、JAMA Netw Open2022; 5: e2141768)に発表した。同氏らは「児のADHD症状を評価する際は、睡眠習慣の丁寧な聴取が必要である」としている。

約650万箇所で遺伝子変化を評価

 以前から、眠気に伴う衝動性や不注意があるとADHDの症状を適正に評価できず、正しい診断に結び付かない可能性が指摘されていた。また、ADHDと診断された者の20~50%が眠気を含む睡眠の問題を抱えているが、ADHD症状の強さと睡眠習慣、遺伝要因との関連は科学的に明らかにされていない。

 そこで高橋氏らは、ADHDの発症と関連する遺伝子変化(遺伝的リスク)に着目。睡眠習慣と日中のADHD症状との関連、両者の関連の強さに対する遺伝的リスクの影響を追究する目的で、出生時にHBC Studyに登録され8~9歳まで追跡を継続した児835例(男児408例、女児427例)を対象に全ゲノム解析を実施した。

 約650万カ所の遺伝子で、ADHDの発症に関連する遺伝的リスクスコア(PRS)を算出。ADHD症状は評価スケール(ADHD-RS)を用い、多動・衝動性症状、不注意症状、総合スコアを算出した。睡眠習慣は総睡眠時間、入眠潜時、入眠時刻(22時前/後)、中途覚醒を評価した。

 対象をADHDのPRSにより高リスク群(208例)、中リスク群(211例)、低リスク群(218例)に分け、睡眠習慣とADHD症状との関連を検討した。

入眠時刻が遅い低リスク群で、ADHD症状スコアが約20%上昇

 構造方程式モデリングによる回帰分析の結果、入眠時刻の遅さのみが、多動・衝動性症状スコア(係数±標準誤差:11.26±2.87、P<0.001)、不注意症状スコア(同9.16±2.91、P=0.002)、総合スコア(同9.83±3.17、P=0.002)と有意に関連していた。総睡眠時間、入眠潜時、中途覚醒との関連は認められなかった。

 次に、入眠時刻とADHD症状との関連を検討したところ、高リスク群、中リスク群では、入眠時刻が遅いことでADHD症状スコアが若干高まる傾向が見られた。その一方で、低リスク群では、入眠時刻が遅いとADHD症状の総合スコアが有意に高かった(係数±標準誤差:21.19±4.77、P<0.001)。

 以上から、高橋氏らは「入眠時刻が遅い8~9歳児ではADHD様症状が出やすく、特にADHDの遺伝的リスクが低い児でその影響が大きい。ADHD症状の評価と診断には、睡眠習慣を考慮することが重要だ」と結論。「既にADHDと診断されている児についても、過剰診断になっていないか検討すべきである」との考えを示している。

(比企野綾子)