近年の研究で、血液凝固第Ⅹ因子(FXa)にはトロンビン活性化を介した血液凝固促進作用に加え、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)-2の活性化を介し、動脈硬化を促進する作用があることが分かっている(Circulation 2018; 138: 1706-1719)。また、経口直接型FXa阻害薬リバーロキサバンを動脈硬化症マウスモデルに投与すると、アテローム動脈硬化の進展が著明に抑制されるという報告もあるが(Atherosclerosis 2015; 242: 639-646)、これらの詳細な機序は明らかでなかった。東京医科歯科大学大学院循環制御内科学分野准教授の前嶋康浩氏らは、バイエル薬品との共同研究でリバーロキサバンがマクロファージにおけるオートファジーの活性化を介して炎症を抑制し、抗動脈硬化作用を発揮することを発見。J Am Coll Cardio Basic Trans Science2021; 6: 964-980)に発表し、動脈硬化治療薬として応用できる可能性を示した。

FXaとオートファジーの連携をマウスモデルで検証

 動脈硬化の発症・進展には、FXaによるトロンビンとPAR-2活性化による促進作用だけでなく、マクロファージにおけるオートファジーの抑制により、自然免疫を担う分子複合体であるインフラマソームが活性化して動脈硬化が促進されることも知られている(Cell Metab 2012; 15: 534-544Cell Metab 2012; 15: 545-553)。しかし、FXaとオートファジーやインフラマソームのシステムとの連携については明らかでなかった。そこで前嶋氏らは「FXaは①PAR-2経路を介したオートファジー、②自然免疫系を介した炎症反応-を制御することで、アテローム動脈硬化の進展に関わっている」との仮説を立てて検証。その上で、リバーロキサバンがFXa-PAR-2経路を介する一連の機序に対しどのように作用するかも検討した。

 同氏らはまず、脂質代謝に関わるアポリポ蛋白(apo)Eを欠損させたマウスに高脂肪食を摂取させる実験で、大動脈における著明な粥状動脈硬化巣の形成と血漿FXa活性の有意な上昇を確認した。続いて、マウスにおいて効果的にFXa活性が抑制できる用量のリバーロキサバン(120mg/kg/日)をapoE欠損マウスに投与。すると、血漿FXa活性が有意に低下し、粥状動脈硬化巣は有意に縮小した。

 FXaがmTORのリン酸化を促進、オートファジーが抑制

 次に粥状動脈硬化巣に存在するマクロファージにおけるオートファジー活性を検討したところ、リバーロキサバン投与群では、非投与群に比べオートファゴソーム数が有意に増加していた。そこで、培養マクロファージを用いてFXaとリバーロキサバンの作用について検討した。マウスマクロファージ細胞(RAW 264.7)に粥状硬化誘導物質7-ketocholesterol(7KC)を添加するとオートファジーが活性化されたのに対し、FXaを添加した細胞では、mTORのリン酸化が促進され、オートファジーが抑制された。さらにリバーロキサバンを添加すると、FXaによるmTORのリン酸化が抑制されて、オートファジー活性が回復した。

 前嶋氏らは、高脂肪食負荷apoE欠損マウスの粥状動脈硬化巣に発現しているインフラマソームの主要構成蛋白NLRP3の発現量が、リバーロキサバン投与により著明に減少することも見いだした。そこで、同様に培養マクロファージを用いて検討した。7KC処理した培養マクロファージにFXaを添加すると、NLRP3の発現量およびインフラマソームの活性化で放出されるインターロイキン(IL)-1βの発現量が亢進した。しかしリバーロキサバンを投与したところ、これらの発現は抑制された。以上から、FXaはオートファジーの抑制およびインフラマソームの活性に関連することが示唆された。

FXaの動脈硬化促進作用はPAR-2を介した経路にとどまらない

 前嶋氏らは、これらの作用へのPAR-2の関与を検証するため、PAR-2欠損マクロファージを用いた検討を実施。PAR-2欠損マクロファージに7KC処理を行うと、野生型マクロファージと同様にオートファジーの活性化が生じたものの、FXaを添加してもmTORのリン酸化、オートファジーの抑制、インフラマソーム活性の亢進は起こらなかった。動物実験でもPAR-2の関連を検討したところ、高脂肪食を負荷したapoE・PAR-2遺伝子二重欠損マウスの大動脈における粥状動脈硬化巣の面積は、高脂肪食負荷apoE欠損マウスより有意に縮小していた。しかし、リバーロキサバンを投与した高脂肪食負荷apoE欠損マウスほどは縮小しておらず、FXaによる動脈硬化促進作用はPAR-2を介した経路にとどまらないことが示唆された。

大規模臨床試験の結果を分子生物学的見地から支持

 今回の研究から、FXaにより動脈硬化の進展が促進されることが示された。また、FXaの動脈硬化促進作用は、PAR-2を介したmTORの活性化に伴うオートファジーの抑制がインフラマソームを活性化することで惹起されるという機序が明らかとなった()。

図.PAR-2を介したFXaによる動脈硬化促進

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(東京医科歯科大学プレスリリースより引用)

 前嶋氏らは「リバーロキサバンには抗凝固作用だけでなく抗動脈硬化作用がある可能性を示したATLAS ACS-TIMI 51試験(N Engl J Med 2012; 366: 9-19)、COMPASS試験(N Engl J Med 2017; 377: 1319-1330)、AFIRE試験(N Engl J Med 2019; 381: 1103-1113)の結果を、分子生物学的見地から支持する知見であると考える。また、オートファジーやインフラマソームといった細胞内メカニズムが動脈硬化症の発症や進展に深く関与していることをあらためて浮き彫りにする結果でもあり、今後、動脈硬化症に対する分子標的薬の開発などに寄与することが期待される」とコメントしている。

(中原将隆)