手術室で音楽をかけると術者のパフォーマンスが向上したとの報告(J Surg Educ 2021; 78: 1709-1716)がある一方、東北大学大学院医工学研究科聴覚再建医工学分野教授の川瀬哲明氏らは、日常生活において音楽やラジオを聴きながらの"ながら作業"は、低音量であっても作業に対する注意レベルが低下する可能性があると、PLoS One2021; 16: e0261637)に報告した。(関連記事「手術中のBGM、いいことばかりではない?」)

左耳にテスト音、右耳に音楽刺激を与え単純タスクへの影響を検討

 日常生活では、複数の情報が存在する環境において各自が重要と認識する情報のみを選択的に注意する認知機能「選択的注意」が働いている。情報が「音」である場合、聞きたい音や聞くべき音のみに注意を向け、不要な音を選択的に無視する働きを「超覚醒選択的注意」と呼ぶ。川瀬氏らは、選択的注意を要する作業中に提示される音楽(BGM)の妨害効果とその特性について検討した。

 健康な男性12人〔平均年齢37.3歳、標準偏差(SD)±11.2歳〕にヘッドホンを装着してもらい、左耳にはトーンバースト音によるテスト音(注意刺激=聞くべき音)を提示し、テスト音が聞こえたらボタンを押すという単純作業を指示した。同時に、右耳(対側耳)には音楽刺激(無視すべき音)を提示し、脳の電気活動により生じる磁場を捉えて脳機能を解析する脳磁図を用い音楽刺激による妨害効果を検討した。なお、対象は聴覚障害や脳神経障害の既往がなく、全員が右利きであった。

音楽刺激で単純タスクに遅れ、ノイズ刺激では影響なし

 左耳に70dBのテスト音を提示し、右耳には80dBから30dBまで毎回10dBずつ下げてノイズ刺激または音楽刺激を一定間隔で提示した。その結果、右耳にノイズ刺激を提示した場合はテスト音に対する脳磁図N1m反応(刺激から100ミリ秒遅れたタイミングで最も安定的に出現する聴覚に信号源を有する反応)はほとんど影響を受けなかったのに対し、音楽刺激を提示した場合はN1m反応が著明に抑制された。N1m反応の抑制は、音楽刺激を30dBまで下げても認められた。さらに、ノイズ刺激に比べ音楽刺激はテスト音の提示に対するボタン押し作業の反応時間を有意に遅らせることが分かった(P<0.05)。なお、音量レベルの目安として図書館内は40dB、通常の会話は60dB、電車内は80dBとされる。

 以上から、川瀬氏らは「低音量の音楽でも、テスト音への反応に対する著明な妨害効果が認められた」と結論。N1mが抑制された理由については、「テスト音に対する選択的注意が右耳に提示した音楽刺激により分散されるため」と考察した。その上で、「音楽やラジオを聴きながらの"ながら作業"では、低音量でも作業への注意レベルが低下する可能性がある」とし、「聴力が正常であるにもかかわらず、騒がしい環境では聞き取り困難を呈する聴覚情報処理障害者などの病態解明や検査方法の開発に役立つことが期待される」と付言している。

松浦庸夫