血液疾患患者の多くは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染すると重篤化しやすいことが知られており、感染予防の徹底が重要となる。その有用な手段の1つがSARS-CoV-2ワクチン接種だが、血液疾患患者ではワクチン接種後の抗体獲得が不良で、特にリンパ腫で治療中の患者は極めて不良なことが判明した。藤田医科大学血液内科学講師の岡本晃直氏、主任教授の冨田章裕氏、同大学院保健学研究科准教授の藤垣英嗣氏、教授の齋藤邦明氏らの共同研究グループが発表。研究の詳細をBlood Adva2022年1月13日オンライン版)に報告したもの。今回の結果を踏まえ、研究グループは「SARS-CoV-2ワクチンを接種しても抗体獲得が期待できない可能性の高い患者では、リスクに応じた重症化抑制を目指した対策の検討が望まれる」としている。

ワクチン接種後の抗体獲得陽性者は7割以下

 研究の対象は血液疾患患者263例および健常ボランティア41例。血液疾患の内訳は、悪性リンパ腫などのリンパ系腫瘍176例、慢性・急性骨髄性白血病などの骨髄系腫瘍49例、特発性血小板減少性紫斑病などの良性疾患38例だった。SARS-CoV-2ワクチンとして、ファイザー製ワクチン、モデルナ製ワクチンを接種した。

 SARS-CoV-2ワクチンの接種前と接種後(1回目接種後7~21日後、2回目接種後約14~28日後)に血液を採血し、抗体価の変化を調べた。また、ワクチン接種によって抗体価が上昇するかどうかを予測する検査値の同定を目的に、接種前に採取した末梢血を用いて、血球の数や種類(CD3、CD19、CD4、CD8、CD16、CD56などの陽性細胞)、免疫グロブリン(IgG、 IgA、IgM)などの値を測定し、抗体価の上昇との関連性も検討した。

 解析の結果、ワクチン2回目接種後の抗体獲得陽性者(20U/mL以上)の割合は、健常者では100%だったのに対し、血液疾患患者では低い傾向が認められた。血液疾患別に抗体獲得陽性者の割合を見ると、骨髄系腫瘍で67.3%、リンパ系腫瘍で45.5%、良性疾患で65.8%だった。獲得抗体価の中央値は、それぞれ80.7U/mL(四方位範囲15.0~114.2 U/mL)、12.0U/mL(同0~68.1U/mL)、57.6U/mL(同11.3~114.2U/mL)と、健常者の105.6U/mL(同62.1~209.7U/mL)に比べ低い傾向が見られた。

 リンパ腫で治療を実施中の患者51例(B細胞性リンパ腫46例、T細胞性リンパ腫4例、その他1例)を対象に、ワクチン2回目接種後の抗体価の変化を調べたところ、上昇が確認されたのはわずか1例のみ(2.0%)だった。このうちB細胞リンパ系腫瘍患者では全例で抗体獲得が認められず、85%(39例)が抗CD20抗体リツキシマブ、オビヌツズマブによる治療を受けていた。

 リンパ腫患者では、治療中および治療終了から3カ月~1年半以上経過した時点で抗体価の推移も調べた。その結果、抗CD20抗体を含む治療を実施した患者では、投与終了後9カ月までは抗体獲得が困難であることが推測されたものの、9カ月以上経過した例では徐々に抗体が獲得される傾向が見られた。一方で、投与終了後9カ月経過しても抗体獲得が困難な例が一部存在することも明らかになった。

 研究グループは「疾患や治療薬の種類だけでなく、それぞれの患者の身体状況によってSARS-CoV-2ワクチンの反応性が異なることを示しており、臨床現場においても注意を要する知見と考えられる」と考察している。

CD19陽性細胞数などが抗体獲得の重要な予測因子に

 さらに、血液疾患患者ではどのような身体状況であれば抗体が獲得できるのかを検討するため、ワクチン接種前に実施した血液検査の値〔血球(CD3、CD19、CD4、CD8、CD16、CD56などの陽性細胞数)、免疫グロブリン(IgG、 IgA、IgM)〕値と抗体獲得との関連を調べた。

 その結果、血液中のCD19d陽性細胞(Bリンパ球)数、CD4d陽性細胞(CD4陽性Tリンパ球)数、IgM値が、ワクチン接種後の抗体獲得と有意に相関することが認められた。

 以上を踏まえ、研究グループは「抗体獲得には血液疾患の病型だけでなく、個々の疾患の状態、治療の種類や実施時期などが影響を及ぼしていると推測される」と指摘。「CD19陽性細胞数、CD4陽性細胞数、IgM値をワクチン接種前に測定することで、SARS-CoV-2ワクチン接種の効果を予測できる可能性が高い。臨床現場でワクチン接種の適応を考える上で有用な情報になることが予想される」とした。

 末梢血中のCD19陽性細胞とは白血球の中のBリンパ球であり、外敵(異物)から身を守る免疫反応に重要な細胞であり、形質細胞に分化して抗体を産生する機能を担っているという。そのため、研究グループは「CD19陽性細胞数が少ない例では、ワクチン接種による抗体獲得能力が低いというわれわれの結果は理にかなっている」と述べている。

 一方、血液疾患患者ではSARS-CoV-2ワクチン接種後であっても抗体が獲得されない例が存在することから、「ワクチン接種後も油断せず、マスク着用、手洗い、消毒などの感染予防対策を継続することが重要。また、患者の家族など周囲の人は患者が抗体を獲得していない可能性を考え、感染予防対策を実施する、またはワクチンを接種するなどして患者への感染の可能性をできる限り減らす配慮をしてほしい」と呼びかけている。

(小沼紀子)