岸田文雄首相は31日、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」対応をめぐり緊急事態宣言を東京都に発令する可能性について、都内で記者団に「少なくとも現時点で検討していない」と述べた。宣言発令は社会経済活動への影響が大きいとして、政府内には慎重論が強い。小池百合子都知事の対応を見極める方針だ。
 東京都の31日時点の病床使用率は49.2%で、宣言要請を検討する基準とする50%に達しつつある。小池知事は同日、都庁で記者団に「オミクロン株の特性に合わせた形で検討していかなければならない」との考えを重ねて示した。
 首相は都の病床使用率について、重症者病床に限れば37.6%にとどまっていると指摘。松野博一官房長官も記者会見で「緊急事態宣言は強度の私権制限を伴い、社会経済への影響が大きい。一定の客観的指標を満たせば機械的に発出するという運用にはなじまない」と語った。
 緊急事態宣言が発令されれば、都道府県知事は飲食店への休業要請やイベントの一層の人数制限などができる。学校の休校など人と人との接触を厳格に制限する措置も検討課題となりそうだ。
 政府内に慎重論が強いのは、オミクロン株患者の重症化率が現時点で低く抑えられ、感染対策と一定の社会経済活動の両立が可能とみているためだ。専門家の間でも政府分科会の尾身茂会長が「人流抑制」に否定的な考えを示したように、「人の流れを止めることに大きな効果は期待できない」との見方が広がっている。
 一方で、感染の波が高齢者に移り、重症患者が増えていけば今後の展開は見通せない。内閣官房幹部は過去最高を更新する感染者数について「これが今後どう推移するかによる」と述べ、発令の可能性は排除していない。
 緊急事態宣言が各知事の「政治的なアピール」の道具に使われかねないと危惧する声もある。首相周辺は「感染がピークを迎えたところで宣言を要請し、感染が縮小すれば指導力を強調する展開はあり得る」と指摘する。まん延防止等重点措置で首相は各知事からの要請を全て受け入れており、宣言の要請があれば難しい判断を迫られる。 (C)時事通信社