前立腺全摘除術は限局性前立腺がんの標準治療であり、局所進行性前立腺がんにおいても治療選択肢の1つだが、再発を来す症例は少なくない。ノルウェー・Oslo University HospitalのShivanthe Sivanesan氏らは、術前に非選択的β遮断薬(β12受容体の両方に作用)を投与した患者では、再発リスクが有意に低かったことをJAMA Netw Open2022; 5: e2145230)に報告した。

カテコールアミンが転移や残存病変の増殖を促進する可能性

 手術による組織の損傷や麻酔薬の使用、精神的なストレスによるカテコールアミン濃度の上昇は、腫瘍細胞の可塑性や周囲の血管系、免疫細胞に影響を及ぼし、転移や残存病変の増殖を促進する可能性がある。また、限局性前立腺がん患者には播種性腫瘍細胞が存在するとの報告があり、カテコールアミンにより活性化され、遠隔転移を促進する可能性がある。β2受容体は重要なアドレナリン受容体であり、カテコールアミン誘発性の腫瘍形成を促進することが示されている(Cell Death Discov 2021; 7: 364)。

 複数の前臨床試験により、非選択的β遮断薬投与によりこれらの作用が抑制されることが示されている。また、乳がんにおける非選択的β遮断薬の術前投与が転移バイオマーカーを減少させた第Ⅱ相ランダム化比較試験(Clin Cancer Res 2020; 26: 1803-1811)、卵巣がんにおける非選択的β遮断薬の術前投与が腫瘍マーカーに与える影響を検討したパイロット研究(Obstet Gynecol Sci 2017; 60: 170-177)などが報告されている。

 前立腺がんにおいては、非選択的β遮断薬の術前投与が術後の前立腺がんのアポトーシスに及ぼす影響を検討する第Ⅱ相のランダム化比較試験が進行中である。

ノルウェー男性の前立腺がんコホートを前向きに解析

 今回の研究では、2004年1月1日〜15年12月31日に前立腺がんと診断とされたノルウェー在住の男性患者について、同国のがん登録、患者登録、処方データベース、死亡原因登録からデータを抽出し、解析した。

 対象は他の前立腺がん治療を受けずに前立腺全摘除術を行った1万1,117例で、年齢中央値は64.8歳(四分位範囲60.4〜68.3歳)。追跡期間中央値は4.3年(同2.4〜6.3年)だった。

 投与薬剤は術前100日以内に処方箋が交付された薬剤と定義した。非選択的β遮断薬が投与されていたのは209例(1.9%)、選択的β1遮断薬は1,511例(13.6%)で、9,397例はβ遮断薬が投与されていなかった。

 非選択的β遮断薬の内訳はカルベジロールが56.9%、プロプラノロールが25.4%だった。非選択的β遮断薬例はβ遮断薬非投与例と比べて有意に高齢で全身状態(PS)が悪く、アスピリン、メトホルミン、スタチンの投与例が多く、予後因子が不良〔前立腺がん特異抗原(PSA)値20mg/mL以上、壁深達度、リンパ節転移〕な傾向が認められた。

 術後PSA値には欠損があり、生化学的再発を特定できなかった。そのため再発は術後6カ月以降の前立腺がん治療実施と定義された。

以前の非選択的β遮断薬との関連はなし

 再発治療を受けた年齢の中央値は、非選択的β1遮断薬投与例が65.8歳(四分位範囲 62.1〜69.4歳)、選択的β1遮断薬投与例が68.2歳(同64.8〜71.0歳)、β遮断薬非投与例が66.2歳(同62.0〜69.6歳)だった。治療は放射線療法が1,252例、ホルモン療法が352例、化学療法が5例で、13例は治療を受けず死亡した。

 Cox比例ハザード回帰分析の結果、非選択的β遮断薬投与と再発リスク低下の有意な関連が認められた〔β遮断薬非投与例に対する調整済みハザード比(aHR)0.64、95%CI 0.42〜0.96、P=0.03〕。3群間でPSに相違があったが、PS 0の症例のみの検討でも同様の結果が得られた(aHR 0.55、95%CI 0.31〜0.99、P=0.05)。アスピリン、メトホルミン、スタチンの投与は前立腺がんの腫瘍学的転帰に影響を及ぼすとされているが、これらの薬剤の使用を調整しても結果は同様だった。

 一方、選択的β1遮断薬投与と再発リスク低下との関連は認められなかった(aHR 0.96、95%CI 0.84〜1.11、P=0.62)。選択的β1遮断薬投与例のうち、202例が以前に非選択的β遮断薬を使用していたが、再発リスク低下との関連はなかった。

 Sivanesanらは「われわれが知りうる限り、今回の検討は前立腺全摘除術例で非選択的β遮断薬の術前投与と再発リスクとの関連を検討した初めての検討であり、今後の介入試験による検証が求められる」と結論している。

(安部重範)