動脈瘤くも膜下出血(SAH)の治療において、患者のアウトカムの最大化につながる発症から治療開始までの至適時間は明確に示されていない。オーストラリア・University of TasmaniaのMarie-Jeanne Buscot氏らは、同国の三次医療施設に搬送された動脈瘤性SAH患者のデータを用いた後ろ向きコホート研究を実施。発症から12.5時間以内に治療が開始された患者において、自宅退院率および12カ月生存率の改善が認められたとする解析結果をJAMA Netw Open2022; 5: e214403)に発表した。

外科的治療または血管内治療の482例を解析

 動脈瘤性SAH患者に対する治療に関しては、2015年の米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中学会(ASA)ガイドライン(GL)で可能な限り早期の治療開始が、また2013年の欧州脳卒中機構(ESO)GLでは発症から72時間以内の介入開始が推奨されている。

 一方、これまでの研究では発症後24~72時間以内の外科的治療または血管内治療の開始が臨床アウトカムの向上に関連していたことが示されている。

 しかし、これらの研究では治療開始のタイミングや施設数、治療方法などに関するバイアスが大きく、治療開始までの至適時間について確固としたエビデンスがなかった。

 そこでBuscot氏らは今回、動脈瘤性SAH患者のアウトカム改善の最大化につながる治療開始までの至適時間を明らかにするため、後ろ向き多施設共同コホート研究で治療開始までの時間と退院先、死亡、合併症との関連を検討した。

 解析対象は、2010年1月1日~16年12月31日にオーストラリアの2カ所の包括的脳血管センターに入院した動脈瘤性SAH患者(575例)のうち、外科的治療または血管内治療が施行された482例(平均年齢55.0歳、女性69.9%)。

 多変量Cox比例ハザードモデルおよびロジスティック回帰モデルを用いて、発症から治療開始までの時間と①退院先(自宅またはリハビリテーション施設)、②12カ月生存率、③神経学的合併症(再出血、遅発性脳虚血、髄膜炎、痙攣発作、水頭症、遅発性脳損傷)-との関連性を解析した。

 発症から治療開始までの時間の中央値は19.37時間(範囲2時間~35日)だった。院内死亡率は16%(80例)で、患者の退院先は自宅が42.8%、自宅以外(リハビリテーション施設や他院、介護施設)が41.3%であった。

発症から12.25時間後の治療開始で死亡リスクが最も低い

 ロジスティック回帰モデルを用いた解析では、治療開始の遅れが、自宅以外の施設への退院もしくは自宅退院のいずれかを決定する有意な因子であることが認められ〔一般化加法モデルにおける有効自由度(effective df)3.83、P=0.002〕、性、治療法、重症度、チャールソン併存疾患指数、高血圧の既往歴などを調整後も同様に有意な関連因子であることが認められた(尤度比検定df=3、逸脱度9.57、P=0.02)。

 また、自宅退院に至る割合は発症後20時間以内の治療開始で高く、発症後12.5時間以内の治療開始では自宅以外の施設への退院と比べて自宅退院となる確率が約10%上昇し、発症後12.5時間から20時間までの治療開始でさらに自宅退院となる確率が5%上昇していた。しかし、治療開始のタイミングが発症後20時間以降になると、約60時間まで自宅退院となる確率は低下した。

 全体の12カ月生存率は83.0%(482例中400例)で、死亡例の81.7%(82例中67例)が発症から30日以内の死亡例であった。Cox比例ハザードモデルを用いた解析では、調整前および調整後のいずれにおいても発症から治療開始までの時間と12カ月死亡率に非線形の関連が認められ、発症後12.25時間以内の治療開始で死亡リスクが最も低くなることが示された。

 治療開始が発症後12.25~24時間では死亡リスクは上昇に転じ、発症後12.25時間と比較すると、発症後24時間以降で死亡リスクは4倍となりプラトーに達していた。なお、治療開始までの時間と神経学的合併症の間には有意な関連は認められなかった。

 これらの結果に基づき、Buscot氏らは「動脈瘤性SAHの治療は、なるべく発症から12.5時間以内に開始し、24時間を経過しないようにすると、12カ月生存率の改善や自宅退院率の上昇につながることが示された」と結論。加えて、対象者のうち治療開始までの時間が発症後12.5時間以内だった患者の割合が29%、24時間以内だった患者の割合が60%にとどまっていたことに触れ、「このような状況が別の集団で確認された場合には、治療開始までの時間を短縮するための介入が必要となるかもしれない」と述べている。

(岬りり子)