【ベルリン時事】世界保健機関(WHO)健康推進部長や米エール大教授を歴任し、国際政治と公衆衛生の関係に詳しいイローナ・キックブッシュ氏が時事通信社のインタビューに応じ、新型コロナウイルス克服へ米中対立など地政学を排した連帯が必要と強調した。テドロスWHO事務局長の手腕も評価した。主なやりとりは以下の通り。
 ―コロナ克服へ中国とどう向き合うべきか。
 冷戦下でも国際保健では各国が連携したが、現在のパンデミック(世界的大流行)は地政学の影響が非常に大きい。テドロス氏は中国と協議し批判されたが、それはWHOの責務だ。重症急性呼吸器症候群(SARS)は中国と克服できた。国際機関の役割は全加盟国を議論の場に上げること。欧州ではパンデミックの終わりが叫ばれ、「ロックダウン(都市封鎖)は中国のような権威主義社会のものだ」と言われているが、批判し合うのではなく学び合うべきだ。
 ―テドロス氏は再選され2期目に入る見通しだ。
 テドロス氏は困難な状況で、WHOをよく運営してきた。コミュニケーションを重視し、週に複数回記者会見を開き、ワクチン分配の重要性を発信してきた。アフリカ出身の初の事務局長で、組織の多様性を高め、南半球の専門家や女性登用も増えた。2期目は、WHOの財源強化が課題だ。
 ―WHOは財源不足だ。
 財源不足は、分担金を延滞していた米レーガン政権と、分担金を引き上げないと妥協したことにさかのぼる。これにより、今でも(比較的自由に使える)WHOの通常予算は全体予算の20%未満で、破壊的影響があった。
 ―コロナ政策に従うかで社会に分断がある。
 実際は分断は大きくないと主張する研究結果がある。多くの人は、ワクチンを接種している。ただ、重要なのは政治や、市民相互の信頼。そのために政治家のコミュニケーションが必要だ。コロナ対策を科学者だけで決め、政治家や社会学者が関与しないのは誤りだ。

 ◇イローナ・キックブッシュ氏略歴
 イローナ・キックブッシュ氏 1981年に世界保健機関(WHO)入りし、健康推進部長などを歴任。98年~2004年、米エール大医学部教授。国際政治と公衆衛生の関係を研究し、複数の邦訳の著書もある。現在は世界健康危機モニタリング委員会の委員などを務める。独ミュンヘン生まれ、73歳。 (C)時事通信社