中年期に複数の慢性疾患に罹患(多疾患罹患)すると、その後の認知症リスクが上昇することが分かった。フランス・Université de ParisのCéline Ben Hassen氏らは、英国のコホート研究Whitehall Ⅱの参加者1万人超を30年間追跡した結果を、BMJ2022; 376: e068005)に報告した。

55歳時の発症で認知症リスク2.44倍

 高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、うつ病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など複数の慢性疾患に罹患する多疾患罹患は、高齢者や認知症患者では一般的に認められる。しかし、若年期の多疾患罹患が、その後のアルツハイマー病発症リスクに影響するかどうかを検討した研究はなかった。

 Ben Hassen氏らは今回、Whitehall Ⅱ studyの参加者を30年間追跡、多疾患罹患と認知症リスクの関係を検討した。

 対象は、1985~88年にWhitehall Ⅱ studyに参加した英国・ロンドンで勤務している35~55歳の公務員1万95人(男性6,895人、女性3,413人)。1985~2019年の4~5年ごと(1991~93年、1997~99年、2002~04年、2007~09年、2012~13年、2015~16年)に臨床検査を行い、多疾患罹患と認知症の関係について検討した。多疾患罹患は、13疾患(冠動脈疾患、脳卒中、心不全、糖尿病、高血圧、がん、慢性腎疾患、COPD、肝疾患、うつ病、精神疾患、パーキンソン病、関節炎/関節リウマチ)のうち2疾患以上を有する場合と定義。認知症は2019年3月31日までの病院および死亡記録で同定した。

 検討の結果、多疾患罹患の罹患率は55歳時で6.6%(9,937例中655例)、70歳時で31.7%(7,783例中2,464例)。中央値で31.7年の追跡期間中に639例が認知症を発症した。

 Cox比例ハザードモデルで年齢、性、民族、教育、食事、ライフスタイルなどを調整後、55歳時に慢性疾患に罹患していないまたは1疾患のみの者に対し多疾患罹患者では認知症リスクは2.44倍になった〔ハザード比(HR)2.44、95%CI 1.82~3.26;1,000人・年当たりの発症率差1.56、95%CI 0.62~2.77〕。

発症年齢の上昇でリスクが低下

 多疾患罹患の発症年齢が上昇するのに伴い、この関係は弱まった。例えば、65歳時の認知症リスクを見ると、多疾患罹患の発症年齢が55歳以前の場合は2.46倍(HR 2.46、95%CI 1.80~3.36;1,000人・年当たりの発症率差3.86、95%CI 1.80~6.52)であるのに対し、多疾患罹患の発症年齢が60~65歳以前の場合は1.51倍(同1.51、1.16~1.97;1.85、0.64~3.39)だった。

 70歳までは、多疾患罹患の発症年齢が5歳下がるごとに認知症リスクが18%上昇した(HR 1.18、95%CI 1.04~1.34)。

 慢性疾患を3疾患以上有する重度の多疾患罹患では、多疾患罹患発症年齢の低さが認知症リスクに及ぼす影響はより強くなった。例えば、多疾患罹患の発症年齢が55歳の場合、慢性疾患が0~1疾患に対して3疾患以上で認知症リスクは4.96倍(HR 4.96、95%CI 2.54~9.67;1,000人・年当たりの発症率差5.22、95%CI 1.14~11.95)になるが、多疾患罹患の発症年齢が70歳の場合、3疾患以上での認知症リスクは1.65倍(同1.65、1.25~2.18;1.65、1.25~2.18)だった。

 以上から、Ben Hassen氏らは「多疾患罹患はその後の認知症と関連が見られ、特に発症年齢が中年期の場合はその関係が強かった。多疾患罹患発症年齢が若年化する中、慢性疾患を1つ発症した患者における多疾患罹患の予防が重要である」と結論した。

(大江 円)