抗PD-1/PD-L1抗体による免疫療法は、さまざまながんの治療に用いられるようになった。しかし、治療効果が得られない症例も多く、その原因解明や治療効果の改善が求められている。国立がん研究センター研究所細胞情報学分野/同先端医療開発センター免疫トランスレーショナルリサーチ分野の熊谷尚悟氏らは、肝転移病変における抗PD-1/PD-L1抗体への耐性機序を解明、Cancer Cell2022年1月25日オンライン版)に報告した。

腫瘍浸潤TregにおけるPD-1高発現は、抗PD-1/PD-L1抗体に治療抵抗性

 抗PD-1/PD-L1抗体によるがん免疫療法の実施には、治療効果を予測するバイオマーカーが必要となる。現在バイオマーカーとされているPD-L1発現レベルは必ずしも治療効果と相関するわけではなく、より精度の高いバイオマーカーが求められている。

 熊谷氏らはこれまで、腫瘍微小環境中の制御系T細胞(Treg)においてPD-1を高発現しているとPD-1/PD-L1阻害薬に治療抵抗性を示し、リンパ球のPD-1発現比(TregのPD-1発現に対するCD8陽性T細胞のPD-1発現の比率〕が抗PD-1/PD-L1抗体の効果予測マーカーとなることを報告している(関連記事「免疫CP阻害薬の治療効果を予測するバイオマーカーを同定」)。しかし、TregがPD-1を高発現する機序は不明だった。

肝転移など、乳酸産生が亢進した病態で腫瘍浸潤TregのPD-1が高発現

 熊谷氏らは今回、肺がんおよび胃がん検体から腫瘍浸潤リンパ球を抽出し、フローサイトメトリーを用いて解析するとともに、次世代シークエンサーを用いてがん組織での遺伝子発現の網羅的解析を実施。その結果、腫瘍浸潤TregにおいてPD-1高発現の腫瘍では解糖系に関わる遺伝子が高発現していた。また、多重免疫染色の結果、解糖系が亢進する病態である肝転移病変において、腫瘍浸潤TregのPD-1発現レベルが高かった。

 その理由については、腫瘍浸潤PD-1陽性Tregでは、他のリンパ球と比べて乳酸トランスポーターであるモノカルボン酸トランスポーター(MCT)1が高発現していたことから、腫瘍の解糖系の最終代謝産物である乳酸をTregが取り込むことによりPD-1を高発現する可能性が示唆された。

 そこで同氏らは、乳酸がTregのPD-1発現を誘導する機序を検討するため、さまざまなT細胞を低糖環境下で乳酸濃度を漸増させ刺激した結果、CD8陽性T細胞では低糖環境下において乳酸濃度の上昇に伴いPD-1発現が減弱したのに対し、TregではPD-1発現が亢進したことから、Tregでは乳酸を介した特異的なPD-1発現機構を有していることが示された。

抗PD-1抗体とMCT1阻害薬の併用で治療抵抗性を改善できる可能性

 マウスを用いた検討では、肝臓内腫瘍は低酸素誘導因子(HIF)1αの発現上昇を介した解糖系関連分子の高発現により、皮下腫瘍や胸腔内腫瘍と比べて乳酸濃度が上昇すること、肝臓内腫瘍では腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のPD-1発現が低下している一方、TregのPD-1発現は高まることが分かった。これは、抗PD-1抗体に治療抵抗性を示すとともに、抗PD-1抗体治療による腫瘍の急速な増大(hyper progression)との関連が示唆された。

 肝臓内腫瘍を有するマウスにMCT1阻害薬を投与した結果、CD8陽性T細胞におけるPD-1発現が亢進し、TregのPD-1発現は減弱した。腫瘍重量はMCT1阻害薬投与により減少し、抗PD-1抗体の併用によりさらに減少した()。

図. MCT1阻害薬投与によるPD-1発現および腫瘍重量の変化

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(国立がん研究センタープレスリリース)

 以上の結果から、熊谷氏らは「肝転移病変をはじめとする解糖系が亢進した腫瘍に対し、乳酸代謝経路を阻害する薬剤の併用によって抗PD-1/PD-L1抗体の治療効果を増強できる可能性が示唆された。新たな治療標的として、臨床開発につながることが期待される」と展望している。

(安部重範)