英国の一般住民約10万人のデータを用いた解析から、生涯にわたる職業上の農薬曝露は慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクを高め、高曝露者で1.32倍だったとの調査結果を、英・Imperial College LondonのSara De Matteis氏らがThorax2022年1月26日オンライン版)に発表した。職業上の農薬曝露とCOPDリスクとの関連は、喫煙や喘息罹患などの交絡因子の影響を受けない可能性も示唆された。

COPDリスクを高める職業曝露因子を特定

 COPDの発症要因として職業曝露は重要な因子であり、リスクの上昇と関連する職業や曝露因子を特定することは公衆衛生上、重要な課題とされている。しかし、その検討に際しては十分なサンプルサイズを確保し、喫煙などの交絡因子の影響を排除して解析する必要があるなどの課題があった。

 そこでMatteis氏らは、英国の一般住民を対象とした大規模コホート研究であるUK Biobankのデータを用いて職歴と肺機能評価データを解析。COPDリスクが高い6つの職業(①彫刻家・塗装工・美術修復家、②造園業者・グラウンドキーパー・公園管理人、③食品・飲料・たばこの加工業者、④プラスチック加工業者・型入れ作業者、⑤農業・漁業従事者、⑥倉庫作業者)を特定し、特に農業関連の職業はリスクが高いことを報告している(Eur Respir J 2019; 54: 1900186)。同氏らは今回、COPDリスクとの関連が報告されている農薬を含む12種類の薬剤に焦点を当て、同じくUK Biobankのデータを用いて、生涯にわたる職業曝露とCOPDリスクとの関連について解析した。

 対象は、2006~10年にUK Bionbankに参加した40~69歳の約50万人のうち、生涯にわたる職歴に関するデータおよびスパイロメトリー検査と喫煙歴に関するデータを有する9万4,514例(平均年齢55.9±7.6歳、女性55.8%)。COPDの診断は、スパイロメトリーで1秒率〔1秒量(FEV1)/努力肺活量(FVC)〕の閾値が正常下限値未満の場合と定義した。

 1988年改訂の国際標準職業分類(ISCO-88)に基づく職業別に、ALOHA plus Job Exposure Matrix(職業別曝露表、JEM)を用いて12種類の薬剤〔農薬、職業性の蒸気/ガス/粉塵/煙(VGDF)、生物学的粉塵、鉱物性粉塵、ガス/煙、除草剤、殺虫剤、殺菌剤、芳香族溶剤、塩素系溶剤、その他の溶剤、金属〕について、それぞれの曝露量(「0=なし」「1=低い」「2=高い」)を評価した。

 曝露量と曝露期間(単位曝露量・年、「曝露なし」「0.5年以上10年未満」「10年以上」)別に、各薬剤の半定量的な累積曝露量を推定。COPDの有病率は、登録施設、性、年齢、喫煙歴、薬剤への同時曝露を調整したロバスト・ポアソン回帰モデルを用いて推定した。

農薬曝露歴がある群では1.13倍

 対象のうち非喫煙者が58.8%を占め、現喫煙者は5.6%と少なかった。喘息の診断歴は11.1%だった。COPDの有病率は、前喫煙者の8.6%および非喫煙者の6.9%に比べ現喫煙者では16.8%と高かった。

 共変量を調整した多変量解析の結果、非曝露群に対するCOPDの発症リスクは農薬曝露歴がある群で1.13倍(95%CI 1.01~1.28倍)、高曝露群では1.32倍(同1.12~1.56倍)といずれも有意に高かった。

 農薬の曝露歴と曝露期間はいずれもCOPDリスクと有意な正の相関を示し(傾向性のP=0.004)、これらの関連は非喫煙者(傾向性のP=0.005)および非喘息者(傾向P=0.001)を対象とした感度分析でも一貫して認められた。12種類の薬剤のうち、曝露歴・期間とCOPDとの有意な関連が認められたのは農薬だけだった。

 Matteis氏らは「既存の研究よりも大規模なサンプルサイズにおいて職業上の農薬曝露とCOPDリスクの関連が認められた。両者の関連は非喫煙者を対象とした感度分析においても一貫して示された」と結論。その上で、「農薬が慢性気道閉塞に与える悪影響について研究をさらに重ね、職業上の農薬曝露による健康被害を防ぐための対策を講じる必要がある」と述べている。

(小谷明美)