厚生労働省は2月10日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する2剤目の経口薬となるニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッドパック)を特例承認した。軽症・中等症I患者に対する治療薬で、昨年(2021年)12月末にCOVID-19の初の経口薬として特例承認されたモルヌピラビル(ラゲブリオ)に続くもの。ニルマトレルビル/リトナビルは、早ければ本日(2月14日)から医療現場での使用が可能になる。モルヌピラビルとの使用上の大きな相違点として、ニルマトレルビル/リトナビルは併用禁忌薬が多数あることに注意が必要となる。高血圧、脂質異常症、不眠症、統合失調症、不整脈などの薬剤を含め併用できない薬剤が38成分と多く、処方時に服用中の治療薬との相互作用に関し慎重な確認が求められることから、今月27日までを試験運用期間と位置付け、約2,000の医療機関における院内処方で提供を開始する。

先行薬モルヌピラビルとの違い、有効性

 ニルマトレルビル/リトナビルは、3CLプロテアーゼ阻害薬のニルマトレルビルと抗HIV薬のリトナビルを併用する治療薬で、先行発売されRNAポリメラーゼ阻害薬のモルヌピラビルとは異なる作用機序を有する。ニルマトレルビルは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼに作用し、その働きを阻害することでウイルスの増殖を阻害する。併用するリトナビルは、ニルマトレルビルの代謝を遅らせ、血中濃度をウイルスに作用するレベルに維持する目的で併用される。

 ニルマトレルビル/リトナビルの臨床試験では、COVID-19発症から3日以内に重症化リスクを有する外来患者に投与した結果、入院や死亡のリスクを89%低下させる有効性が認められた。同薬の製造販売元であるファイザーはSARS-CoV-2変異株オミクロン株にも有効との認識を示している。

 ニルマトレルビル/リトナビルの承認により、オミクロン株への有効性が示唆される軽症・中等症のCOVID-19患者に対する治療選択肢は、経口薬のモルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビル、中和抗体薬ソトロビマブ、抗ウイルス薬レムデシビルの4種類に広がった(表1)。いずれも重症化リスクを有する症例が対象だが、医療現場では患者の状態や薬剤の特性などに応じて適切に選択することになる。

表1. 重症リスクを有する軽症・中等症のCOVID-19患者に使用できる薬剤

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(日本感染症学会「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第13版」を基に編集部作成)

 ニルマトレルビル/リトナビルは試験運用期間中に全国約2,000の医療機関と一部の薬局において院内処方が行われ、使用実績を積み上げる。次の段階として、これらの実績を踏まえた上で、必要に応じ説明文書の修正や添付文書の改訂を行うなどして、2月28日以降に全国の医療機関の入院や外来でも処方できるようにする。同薬は日本政府が今年中に計200万回分を確保しており、先行して4万回分は納入済みで、2月下旬にも追加で納入を予定しているという。

妊婦や妊娠の可能性のある女性にも投与可能

 ニルマトレルビル/リトナビルの投与対象は、重症化危険因子を有するなど、同薬の投与が必要と考えられる軽症・中等症のCOVID-19患者。用法・用量は、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児に1日2回、5日間投与する。

 妊婦または妊娠している可能性のある女性には、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」とされた。妊娠ウサギにニルマトレルビルを投与した実験において、臨床曝露量(AUC)の10倍に相当する用量で胎仔体重の減少が認められているほか、妊娠ラットにリトナビルを投与した実験で胎盤を通過して胎仔へ移行することが報告されたことを踏まえたもの。

 これに対し、モルヌピラビルは動物試験で胎児毒性が報告されており、妊婦や妊娠している可能性のある女性には投与禁忌である。そのため、ニルマトレルビル/リトナビルは妊婦や妊娠している可能性のある女性に対し、治療上の有益性が危険性を上回る場合には使用できる経口薬としての期待が寄せられている。

 また、中等度の腎機能障害患者〔推算糸球体ろ過量(eGFR)30mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満)には投与可能だが、重度の腎機能障害患者(eGFR30mL/分/1.73m2未満)への投与は推奨されていない。

併用禁忌薬38成分、高齢者には使いづらい側面も

 日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第13報」(2022年2月10日改訂)では、ニルマトレルビル/リトナビルの投与が必要と考えられる患者像として、①60歳以上、②BMI25超、③喫煙者(過去30日以内の喫煙があり、かつ生涯に100本以上の喫煙がある)、④免疫抑制疾患または免疫抑制薬の継続投与、⑤慢性肺疾患(喘息は処方薬の連日投与を要する場合のみ)、⑥高血圧の診断を受けている、⑦心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、心不全、ニトログリセリンが処方された狭心症、冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈インターベンション術、頸動脈内膜剥離術または大動脈バイパス術の既往を有する)、⑧1型または2型糖尿病、⑨限局性皮膚がんを除く活動性のがん、⑩慢性腎臓病、⑪神経発達障害(脳性麻痺、ダウン症候群など)または医学的複雑性を付与するその他の疾患(遺伝性疾患、メタボリックシンドローム、重度の先天異常など)、⑫医療技術への依存(SARS-CoV-2による感染症と無関係な持続陽圧呼吸療法など)―を挙げている。

 リトナビルはCYP3Aの強い阻害作用、CYP1A2の中等度誘導作用、P糖蛋白およびOATPの阻害作用などを有するため、併用薬剤と相互作用を起こすリスクがある。そのため、ニルマトレルビル/リトナビルを使用する際には、服薬中の薬剤や新規に開始する薬剤全てに関し、相互作用について添付文書などを事前に確認する必要がある。その際、重症化危険因子や禁忌薬の服用の有無、合併症や妊娠の有無なども併せて把握するためのツールとして、ファイザーが作成した「パキロビッドパック投与前チェックシート」を参照することが求められた。

 ニルマトレルビル/リトナビルの併用禁忌薬として、抗真菌薬、鎮痛薬、脂質異常症治療薬、抗凝固薬、降圧薬、抗不整脈、抗精神病薬、抗てんかん薬、抗不安薬、片頭痛治療薬、勃起不全改善薬など38成分が挙げられている他、セイヨウオトギリソウを含有する食品(ハーブティー、サプリメントなど)も禁忌とされた(表2)。

表2. ニルマトレルビル/リトナビルの併用禁忌薬(38成分)

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 併用注意薬も多く、抗HIV薬、抗悪性腫瘍薬、副腎皮質ステロイド、免疫疾患治療薬、降圧薬、気管支拡張薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、パーキンソン病治療薬など70近い成分と併用する際には注意が求められる。特に基礎疾患が多い高齢者では、持病の薬剤に相互作用を起こす薬剤が含まれていないか確認が必要なため、高齢者には処方しにくい可能性がある。

 国立国際医療研究センターが欧米における併用禁忌薬剤として「パキロビッドパックとの併用に慎重になるべき薬剤リスト」を作成・公開しており、厚労省は処方時に参考として欲しいとしている。

(小沼紀子)