奈良県立医科大学循環器内科の野木一孝氏らは、急性非代償性心不全患者を対象に、ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP、カルペリチド)の投与の有無別、初回投与量別に1年時の予後を検証した結果をESC Heart Fail2022年2月4日オンライン版)に発表。カルペリチドを0.02μg/kg/分以上投与した患者で良好な成績が得られたことを報告した。

約3,000例のデータを用い、投与量別に3群に分け比較

 『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』では、急性心不全患者に対しカルペリチドの静脈投与がクラスⅡa、エビデンスレベルBとして推奨され、広く使用されている。しかし、その根拠の1つとなったランダム化比較試験は小規模なものであり、幾つかの検討ではカルペリチドが生存率の改善に寄与しなかったと報告するなど、カルペリチドの有効性と安全性および至適用量に関するエビデンスは十分とはいえなかった。

 そこで野木氏らは、急性非代償性心不全の多施設観察研究COOPERATE-HF-Jの2つのコホートNARA-HF(Framingham診断基準で急性非代償性心不全と診断されて緊急入院した20歳以上の1,391例)およびREALITY-AHF(同1,682例)のデータを用いて、カルペリチドが予後に及ぼす影響を検証した。対象を、救急センターに搬送後48時間以内のカルペリチド投与の有無、また初回投与量別に①非カルペリチド群(1,098例)、②カルペリチドの投与量が0.02μg/kg/分未満の超低用量群(593例)、③0.02μg/kg/分以上の低用量群(744例)-の3群に分類。維持透析例や、硝酸薬との併用例などは除外した。

 主要評価項目は入院後1年以内の心血管死、副次評価項目は全死亡、入院後1年以内の全死亡および心不全悪化による再入院、院内死亡、1年時死亡率、救急センター到着後48時間以内の最低収縮期血圧90mmHg未満とした。

 主な患者背景は、年齢中央値79歳、55.3%が男性で、超低用量群および低用量群の投与量中央値は、それぞれ0.013μg/kg/分と0.025μg/kg/分だった。カルペリチドの投与量と性、心拍数、脂質異常症、糖尿病、冠動脈疾患、心房細動、入院時の治療薬の使用状況に有意な関連は認められなかった。一方で、左室駆出率35%未満、ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類クラスⅢまたはⅣ、喫煙歴ありの割合は超低用量群で、高血圧の割合は低用量群で多く、非カルペリチド群では心不全の新規発症の割合が少なかった。また、収縮期血圧は超低用量群で有意に低かった(非カルペリチド群140mmHg、超低用量群133mmHg、低用量群143mmHg、P<0.001)。

超低用量群ではカルペリチドによる改善効果は認められず

 解析の結果、院内死亡率(非カルペリチド群5.5%、超低用量群7.1%、低用量群3.9%、P=0.037)、30日以内死亡率(同4.7%、6.4%、3.2%、P=0.024)および1年以内の死亡率(同22.9%、22.3%、16.5%、P=0.003)はいずれも低用量群で有意に低く、Kaplan-Meier法に基づく解析でも、心血管死亡率(P<0.001)および入院後1年以内の全死亡率(P=0.002)が他の2群と比べて低用量群で有意に低かった。一方、心不全悪化による1年以内の再入院率は非カルペリチド群21.8%、超低用量群21.8%、低用量群21.0%と有意差は認められず(P=0.908)、Kaplan-Meier法に基づく解析においても有意差は認められなかった。

 心血管死、全死亡、心不全悪化による1年以内の再入院について、多変量解析により非カルペリチド群を参照としてハザード比(HR)を算出した結果、超低用量群ではいずれも有意差は認められなかったが、低用量群では心血管死(HR 0.696、95%CI 0.513~0.944、P=0.020)および全死亡(同0.791、0.628~0.997、P=0.047)で有意にリスクが低かった。 救急センター到着後48時間以内の最低収縮期血圧が90mmHg未満となる割合は、非カルペリチド群27.2%、超低用量群38.0%、低用量群25.0%で、超低用量群では非カルペリチド群(P<0.001)および低用量群(P<0.001)のいずれとの比較においても有意に多かった。

 野木氏は、超低用量群でカルペリチドを投与しながらも良好な成績を示せなかったことについて「過去の検討では、急性心不全の急性期治療で血圧が低下すると予後不良というデータがある。超低用量群では入院時の収縮期血圧が他の2群と比べて有意に低く、カルペリチド投与がさらなる血圧低下を招き、良好な結果が得られなかった可能性がある」と指摘。その上で、「低用量カルペリチドは入院後の心血管死および全死亡リスクを有意に低下させた。急性非代償性心不全の予後を改善させるカルペリチドの至適用量を、検出力の高いランダム化比較試験により検証する必要がある」と述べている。

(編集部)