天野篤・順天堂大医学部特任教授のインタビューの主なやりとりは次の通り。
 ―10年を振り返って。
 日常のご体調を見ても、手術はうまくいったと思っている。上皇陛下は当時78歳。ある程度健康を維持できれば良いという考え方もあるが、若い人と同じような手術をやっておいて本当に良かった。
 東日本大震災で世の中が随分と変わった。陛下も天皇としてのお務めを考えられた時期に震災が起きたが、被災地訪問をはじめ、平成の天皇、皇后両陛下の精力的な活動に国民はみんな心が救われた。手術から退位までの活動の一つの歯車として、すごく貴重な体験をさせてもらった。この10年間は外科医として非常に充実した時間を過ごせたので、感謝しかない。
 ―当時の心境を改めて。
 手術1週間前の検査時に、「状況によっては手術になると思うので、遠くに行かず待機していてほしい」と、当時の金沢一郎皇室医務主管(故人)から声を掛けられた。執刀の際は、国民の期待を背負ったプレッシャーと「業界代表」としてのプライド、「いつも通りのことをやるだけ」という三つの感情が入り交じっていた。
 ―手術して自身に変化は。
 手術の年の天皇誕生日記者会見で、陛下は「公平の原則」ということを言われた。この言葉が私の心にぐさっと刺さった。患者さんに差をつけずに接してきたつもりだったが、「結局は自分自身のためにやっていないか」という思いが湧いてきた。陛下の公平の原則に少しでも近づきたいと思い、努力した結果、真の外科医として変わった。
 ―上皇さまの公平の原則を感じたところは。
 病室にワープロまで持ち込まれていた。常に全ての人に対して同じように接せられていると感じた。精力的な地域訪問に加え、トランプ前米大統領のような世界一の権力者から市井の老人まで、同じ距離感で接する人は他にいない。
 ―今後の活動について。
 良い経験をさせてもらったので、アジアの人たちに自分の経験を提供できればと思っている。日本は医療レベルが高いが、中国やベトナムに行けば、私の経験が役に立つことがあり、一番役に立つところで自分の持っているエネルギーを費やしたい。「医療はみんなのものだ」ということを、アジアの人たちに伝え、具現化したい。
 ―上皇さまの最近の様子、コロナ禍での生活の心配は。
 コロナ禍前の2019年12月23日、誕生日の茶会に招かれ、お会いした。変わりなくお元気だった。自分自身をコントロールすることについて、ものすごくレベルが高い。上皇后さまも非常にいろいろと気遣われてうまく工夫して日常を送られているだろうし、心配はない。いつまでもご健康で、またハゼの新種を探されて、国民の話題となるような研究活動を続けていただきたい。 (C)時事通信社