東京医科歯科大学大学院小児地域成育医療学講師の清水正樹氏は、慢性移植片対宿主病(cGVHD)に対しJAK阻害薬バリシチニブ(適応外)を投与した症例について、第49回日本臨床免疫学会(2021年10月28〜30日、ウェブ併催)で報告した。筋膜炎、強皮症などの症状が改善し、これまで有効な治療法がなかったcGVHDに対し、バリシチニブが有用な治療選択肢になる可能性が示唆された。

ステロイド、免疫抑制薬抵抗性の症例に投与

 cGVHDは、造血幹細胞移植後の患者の30〜50%で見られる比較的高頻度の合併症で、病変は皮膚、爪、毛髪、口腔、眼、生殖器などさまざまな部位で見られる。特に皮膚病変の頻度が高く、色素脱失や丘疹、鱗屑性病変、一部の患者では強皮症のような硬化性の皮膚病変を呈することがある。爪も特徴的で、萎縮や爪割れ、分裂、変形などが起こり、重症化するとQOLが大きく低下する。

 cGVHDの筋関節症状に対する治療は、難治例が多く難渋する。清水氏は「今回、ステロイドや免疫抑制薬に抵抗性の症例にバリシチニブを試し、非常に良好な結果を得られた2例について報告する。ともに比較的まれな病変で、筋膜炎または関節拘縮、関節炎・関節痛を呈していた」と説明した。いずれも同大学未承認新規医薬品等評価委員会の承認を得て投与した。

 症例1は19歳の男性。1歳時から血球貪食性リンパ組織球症(HLH)を反復しており、11歳時に発熱、下痢、肛門周囲膿瘍により、クローン病と診断。これら症状の組み合わせから、17歳時にXIAP(X-linked inhibitor of apoptosis)欠損症と診断され、非血縁者間同種骨髄移植が行われた。無事に生着したが、19歳時に全身倦怠感、四肢の疼痛、可動域制限が出現した。

 関節評価の指標Photographic Range of Motion(P-ROM)スコア〔1点(悪い)〜7点(正常)〕は、肩が2点、肘が4点、手/手指が3点、足が3点と、中等症〜重症の関節病変が認められた。全身の疼痛もあったため、MRI所見と病理所見を合わせてcGVHDによる筋膜炎と診断した。

治療開始6カ月後に筋膜炎は完全に消失

 症状発現時にプレドニゾロンとタクロリムスによる治療を開始したが、いずれもほとんど効果がなく、プレドニゾロンを増量。しかし、症状にはほとんど改善が見られなかったため、タクロリムスをミコフェノール酸モフェチル(MMF)にスイッチした。MMFを漸増したところ、C反応性蛋白質(CRP)などの炎症マーカーは少し下がったが症状はほとんど改善しなかった。

 そこで清水氏らは、バリシチニブの投与を開始。2mg/日から開始し副作用がないことを確認して4mg/日に増量したところ、投与開始2カ月後から徐々にではあるが症状の改善が見られ炎症マーカーやD-ダイマーも正常化した。最終的にはMMFをバリシチニブに完全にスイッチして、現在は単剤でコントロール良好な状態に至っている(図1)。

図1. 症例1の臨床経過

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 P-ROMスコアの変化を見ると、肩と肘が7点、手/手指が6点、足が4点で、足以外は大幅な改善が見られた。また、治療開始後6カ月のMRIでは、筋膜炎の所見は完全に消失していた。

関節症状が改善し腱鞘炎が消失

 症例2は23歳の男性。3歳時に繰り返す気管支炎を契機に免疫学的な解析から、T細胞減少症、補体欠損症(C2/9欠損)と診断された。6歳時にエプスタイン・バーウイルス(EBV)関連肺平滑筋肉腫、8歳時にはエルシニア腸炎、9歳時には胸膜炎に罹患。18歳時から両側下腿の紅斑や肺炎を繰り返すようになり、21歳時にatypical X-SCID(X連鎖重症複合免疫不全症)と診断された。その後、非血縁者間同種骨髄移植が行われ無事に生着したが、施行1年後から手指の皮膚硬化が目立つようになり、可動域制限を伴う多関節痛が出現してきた。

 P-ROMスコアは、肩(7点)や肘(7点)には問題なく足は4点だったが、手/手指は1点で、皮膚症状や関節拘縮が強い状態になっていた。また爪の変化が強く、爪がほとんど生えておらず机に指を突くだけで激痛が走るような状態だった。MRIでは、手指の屈筋腱を中心に腱鞘炎の所見が見られた。

 MMFで治療を行っていたが、効果がなかったためバリシチニブにスイッチ。2mg/日から開始し、副作用がないことを確認してから4mg/日に増量したところ、徐々に症状が改善し最終的に炎症マーカーも陰性化した(図2)。現在はMMFを中止し、バリシチニブ単剤で良好な経過が得られている。P-ROMスコアは、肩、肘、足に変化なく、手/手指は4点まで改善した。現在は炎症が消失したためリハビリを進めており、さらに改善してきている。6カ月後のMRIでは、腱鞘炎の所見は消失していた。

図2. 症例2の臨床経過

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(図1、2とも清水正樹氏提供)

 清水氏は「これまで、GVHDへのバリシチニブの効果はマウスモデルでしか示されていなかったが、筋骨格症状を中心としたcGVHD患者にバリシチニブを用いたところ、極めて有効であった。有効な治療法がなかったcGVHDに対し、今後はバリシチニブが有用な治療選択肢の1つになるのではないだろうか」と期待を示した。

(慶野 永)