東京大学の研究グループは、心臓移植患者におけるサルコペニアと移植後の感染症発症との関連を後ろ向きに検討し、結果をESC Heart Fail2022年2月10日オンライン版)に発表した。サルコペニアと考えられる患者では、そうでない患者と比べて感染症リスクが有意に高かった。

術後生存期間は12~13年と延長したが感染症リスクが高い

 近年、末期心不全患者に対する心臓移植後の生存率やQOLは向上し、1年生存率は90%超、生存期間の中央値は12~13年にも達する。一方で、心臓移植患者では感染症のリスクが高く、移植後の主な死因となっている。日本では心臓移植が必要な末期心不全患者は増加しているのに対し、心臓ドナーの数が追い付いておらず、患者をリスク層別化し、移植可能な心臓を最大限に有効活用することが望ましいといわれている。

 また、腎、肝、肺などの臓器移植が必要な患者ではしばしばサルコペニアが認められ、サルコペニアが予後不良の原因となっている。末期心不全患者でもサルコペニアを有する頻度は高いが、サルコペニアが心臓移植患者に及ぼす影響を検討した報告はほとんどないことから、研究グループは今回、心臓移植患者におけるサルコペニアと移植後の感染症リスクとの関連を調査した。

筋萎縮群でLVAD装着時の遅発性右心不全が多発

 対象は、東京大学病院において2007年8月~19年12月に正位心臓移植を行った109例。18歳未満や院内死亡、移植後6カ月以内に退院できなかった者は除外した。移植前150日以内にCT検査により第3腰椎の骨格筋量を評価し、男女別に三分位に分類、男女とも最も低値の集団を筋萎縮群、それ以外を非筋萎縮群とした。同大学の方針に基づき、全例で導入療法は行われなかったが、標準の免疫抑制療法は施行された。

 主要評価項目は、入院、抗菌薬の静脈内投与または長期投与が必要な移植後6カ月以内の重症感染症。その他、移植後の生存率も評価した。

 全体のうち、男性は73.4%で、平均年齢は41.6歳、心不全の病態として非虚血性拡張型心筋症が最も多く、男性の平均骨格筋断面積115.5cm2、平均骨格筋量指数は39.8cm2/m2、女性ではそれぞれ71.9cm2、29.4cm2/m2で、平均骨格筋量指数のカットオフ値を男性では36.3cm2/m2、女性では28.3cm2/m2とした。このカットオフ値に基づいた筋萎縮群(37例)と非筋萎縮群(72例)の主な患者背景は、男性では73%、74%、年齢中央値は42.5歳、41.2歳、平均骨格筋断面積は83.9cm2、114.2cm2、平均骨格筋量指数は29.9cm2/m2、40.7cm2/m2だった。

 また、全体のうち、99.1%が移植前に左室補助人工心臓(LVAD)を装着し、内訳は植え込み型が83例、体外設置型が25例だった。筋萎縮群と非筋萎縮群別に見たLVADの装着期間はそれぞれ1,178日、1,162日で、装着期間中の再入院の要因となったイベントとして、脳血管障害の発症および体内に植え込まれた人工心臓と体外の装置をつなぐドライブラインにおける細菌感染(ドライブライン感染)に有意な群間差はなかったものの、遅発性右心不全(16.2% vs. 2.8%)は筋萎縮群で有意に多かった(P=0.012)。

筋萎縮群では感染症リスクが3.7倍

 解析の結果、主要評価項目である移植後6カ月以内の重症感染症は、全体で14.7%が発生し、群間別に見ると非筋萎縮群の8.3%に対し、筋萎縮群では27.0%と有意に高かった(P=0.009)。感染症による入院期間の中央値は非筋萎縮群18日、筋萎縮群17日であった。感染の内訳として、最も多かったのは気道と上部消化管が各5例、尿路が4例で、細菌性が6例、ウイルス性が5例だった。細菌性感染は全て筋萎縮群で発生し、グラム陰性菌によるものだった。また、ウイルス性感染は、全てサイトメガロウイルスによるものだった。

 移植後6カ月以内の感染症の危険因子を評価するため、単変量および多変量解析を行ったところ、有意なリスク因子として筋萎縮が抽出された〔ハザード比(HR)3.68、95%CI 1.19~11.3、P=0.023〕。 平均追跡期間は886日で、この間の死亡率は非筋萎縮群2.8%、筋萎縮群5.4%だった。3年時の生存率に有意差はなかった(P=0.56)。

 以上の結果を踏まえ、同グループは「筋萎縮患者では移植後の感染症リスクが高かった。心臓移植候補者の感染リスク層別化に向け、移植前の骨格筋量測定が有用かもしれない」と指摘。また、LVAD装着期に、筋萎縮群で遅発性右心不全が多く認められたことについて、「右心不全は体重、脂肪、骨量、筋量の著しい低下に代表される心臓性悪液質と関連するため、十分な管理が求められる」と述べている。

(編集部)