急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の集中治療室(ICU)退室後には、患者だけでなくその家族にも心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神症状が現れることがある。フランス・Saint Louis University HospitalのElie Azoulay氏らは、500例超の前向きコホート研究で検討した結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるARDS発症例ではCOVID-19以外が原因のARDS発症例と比べ、ICU退室90日後に家族がPTSDを発症するリスクが有意に高かったとJAMA2022年2月18日オンライン版)に発表した。

COVID-19以外が原因のARDSに比べオッズ比2倍

 Azoulay氏らは2020年1~6月にフランスの23のICUにおいて、ARDSを発症して入院した成人患者1例につき、ICU滞在に最も深く関与した成人の家族1例を登録。計517例(年齢中央値51歳、女性72%、患者の配偶者48%)を解析に組み入れ、COVID-19によるARDS発症例の家族(COVID-19群、303例)とCOVID-19以外が原因のARDS発症例の家族(非COVID-19群、214例)の2群に分類した。

 主要評価項目は、ICU退室後90日時点のImpact of Events Scale-Revised(IES-R)スコア※1で評価した家族のPTSD症状とした。副次評価項目は、同時点のHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)スコア※2で評価した家族の不安および抑うつ症状とした。

 解析の結果、COVID-19群では非COVID-19群と比べて、主要評価項目としたPTSD症状(35% vs. 19%、群間差16%ポイント、95%CI 8~24%ポイント、P<0.001)、副次評価項目とした不安症状(41% vs. 34%、同8%ポイント、0~16%ポイント、P=0.05)、抑うつ症状(31% vs. 18%、同13%ポイント、6~21%ポイント、P<0.001)の発生率がいずれも有意に高かった。

 年齢、性、社会的支援レベルを調整後の多変量ロジスティック回帰モデルを用いた解析の結果、COVID-19によるARDSは患者の家族におけるPTSD発症リスク上昇と独立した有意な関連が認められた(オッズ比2.05、95%CI 1.30~3.23、P=0.002)。

感染懸念で葬儀に不参加などが悪影響の可能性も

 以上を踏まえ、Azoulay氏らは「COVID-19以外が原因のARDSに比べてCOVID-19によるARDSでICU入室となった患者では、ICU退室後90日時点で家族がPTSD、不安、抑うつ症状を呈するリスクが有意に高かった」と結論している。

 また、ICU退室後90日以内に患者が死亡した家族(全体の26%)に限定した解析でも、COVID-19群は非COVID-19群に比べてPTSD症状(63% vs. 39%、群間差24%ポイント、95%CI 7~40%ポイント、P=0.008)、不安症状(55% vs. 32%、同23%ポイント、7~39%ポイント、P=0.009)、抑うつ症状(55% vs. 20%、同35%ポイント、18~49%ポイント、P<0.001)の発生率がいずれも有意に高かった。

 患者と死別した家族で特にリスクが高かった点について、同氏らは「COVID-19パンデミックによる混乱が、ICU退室後のアウトカムに悪影響を及ぼした可能性がある。例えば、27~40%の家族が患者の死に立ち会えなかった。また、COVID-19群では非COVID-19群と比べ、患者の葬儀に参加できた家族が少なかった(77% vs. 91%)。これらは、おそらく感染への懸念に起因するものだろう」と考察している。

※1 Impact of Events Scale-Revised(IES-R):スコア範囲0(最良)~88(最悪)、スコア22超でPTSD症状ありと判定
※2 Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS):スコア範囲0(最良)~42(最悪)、不安および抑うつの各サブスケールスコア7以上でそれぞれの症状ありと判定

(太田敦子)