スイス・University Hospital BaselのMichael Kühne氏らは、心房細動(AF)患者約1,200例が対象の多施設前向きコホート研究を実施。標準化した頭部MRI検査で評価した結果、対象の多くがワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を用いた抗凝固療法を行っていたにもかからず、5.5%で2年後に脳梗塞が検出され、8割以上が無症候性だったにもかかわらず認知機能低下と関連する可能性も示されたとEur Heart J (2022年2月17日オンライン版)に報告した。今回の知見から、同氏らは「新たな脳梗塞による脳血管の損傷を防ぐには、抗凝固薬のみでは十分でないことが示唆された」としている。

頭部MRIで2年後の新規脳病変を定量評価

 AFは脳卒中、心不全、認知機能障害、認知症などの危険因子であることが知られている。しかし、AF患者における脳梗塞など新たな脳病変の発生頻度や、脳病変が認知機能に及ぼす影響は明らかになっていない。特に、経口抗凝固薬(OAC)を服用しているAF患者を対象とした前向き研究データは十分ではない。

 そこで、Kühne氏らはAF患者を前向きに追跡するコホート研究を実施。標準化した頭部MRI検査を用いて2年後の新たな脳病変の発生頻度およびそれらの潜在的な予測因子を探るとともに、新規脳病変の発生と認知機能の変化との関連についても調べた。

 対象は、スイスの14施設で進行中のコホート研究Swiss Atrial Fibrillation(Swiss-AF)に参加したAF患者1,227例。ベースライン時および2年後に標準化した頭部MRI検査を実施し、新規の非皮質下小梗塞(SNCI)、非皮質下または皮質下大梗塞(LNCCI)、白質病変、微小脳出血を定量評価した。脳MRIで新たにSNCI/LNCCIが認められ、脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を起こしていない患者を「無症候性梗塞(silent infarct)」と定義した。

 認知機能の評価には、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)、Trail Making Test(TMT)-A、B、Digit Symbol Substitution Test(DSST)、Semantic Fluency Test(SFT)の各種検査を年1回実施。これらの検査結果を基に研究グループが開発した独自の評価スコア(Swiss-AF Cognitive Construct;CoCoスコア)を用いて認知機能を定量評価した。

脳梗塞検出例の88%がOACを服用

 ベースライン時の患者背景は、平均年齢71.4歳、女性26.1%、非発作性AF 53.1%で、脳卒中またはTIA既往歴は19.2%が有していた。治療薬として89.9%(1,103例)がOAC(ワルファリン33.7%、DOAC56.2%)、17.0%(208例)が抗血小板薬を服用しており、2年後のフォローアップ時にはそれぞれ84.7%(1,037例)、12.1%(148例)が服用していた。

 追跡期間中に28例(2.3%)が脳卒中(19例)またはTIA(9例)を発症した。また、2年後の頭部MRIで68例(5.5%)に1つ以上の新たな脳梗塞が検出された。これらの88.2%(60例)はベースライン時からOACを服用しており、85.3%(58例)は無症候性だった。梗塞巣の範囲(体積)は、症候性の脳卒中/TIAを併発した10例と比べて、無症候性脳梗塞検出例では小さかった(4.56mL vs. 0.26mL)。新たな白質病変は全体の18.7%、微小脳出血は11.4%に認められた。

脳梗塞は認知機能低下に関連、症状の有無と無関係

 認知機能の変化との関連を見ると、2年後の頭部MRIで新たに脳梗塞が検出された者では、されなかった者と比べて各種検査の認知機能スコアに低下が見られた。CoCoスコア変化の中央値は、新たに脳梗塞が検出されなかった者の0.07(四分位範囲-0.09~0.25)に対し、検出された者では-0.12(同-0.22~-0.07)だった。一方で、新たな白質病変および微小脳出血との間には一貫した関連は見られなかった。

 また、ベースライン時のCoCoスコアと年齢、性、教育歴を調整した解析から、症候性、無症候性にかかわらず、新たな脳梗塞検出とCoCoスコア低下との関連の強さは同程度だった。

 さらに、多変量回帰モデルを用いて新規脳病変の予測因子を探索したところ、新たな脳梗塞に関連する因子として年齢〔10歳上昇するごとのオッズ比(OR)1.89、95%CI 1.30~2.78、P=0.001〕と脳卒中/TIAの既往(同1.95、1.11~3.32、P=0.017)が抽出された。これらの因子は新たな白質病変のリスク増加とも関連しており、年齢は微小脳出血リスク増加との関連が見られた。

抗凝固療法では認知機能低下は防げない

 以上の結果を踏まえ、Kühne氏らは「Swiss-AFコホートでは、2年の追跡期間中に5.5%が新たな脳梗塞を発症し、その85%は無症候性で、88%がOACを服用していた。また、無症候性脳梗塞例の梗塞巣は症候性例と比べて小さかったにもかかわらず、認知機能低下への影響は同程度だったことから、症状の有無を問わず脳梗塞は認知機能低下の重要な因子であることが示唆された」と結論。その上で、「抗凝固療法はAF患者の心原性脳塞栓症予防に有効であり、認知症リスクの低下に寄与することが報告されている。しかし今回の知見から、AF患者の脳血管への影響と認知機能の低下を防ぐには、抗凝固療法のみでは不十分である可能性が考えられる」と付言している。

(小谷明美)