東日本大震災から11年を経て、国による歯科情報のデータベース(DB)化が検討されている。震災当時、歯型や治療痕による身元特定の有効性が示され、将来の災害に備えた活用を見込む。専門家は身元確認の迅速化だけでなく、医療の高度化も期待できると指摘する。
 歯は人体で最も硬い組織のため、腐敗などの影響を受けにくく、個人識別に有効とされる。東日本大震災の後、損傷の激しい遺体の多くが、歯型を手掛かりに特定できた。
 宮城県では、東北大の青木孝文教授(情報学)らが地震発生後に整備した県民の歯科情報検索システム「デンタルファインダー(DF)」が威力を発揮した。
 県警や市民の協力でカルテを集め、約4000件の歯科情報をコンピューター上に登録。照合や検索業務を手作業で行うよりも、大幅に効率化できたという。同県の歯科医師千葉宏さん(65)は「すごく助かった。DFがなければ、いつ作業が終わるか見当もつかなかった」と話す。
 昨年9月末までに県内で検視された遺体約9500人のうち、約1割に当たる923人の身元が歯型で特定できた。しかし、津波などの被害でカルテが消失し、身元が特定できなかったケースも少なくない。DB化しておけば、データ消失を防げたという。
 こうした経緯を踏まえ、厚生労働省などは歯科情報のDB化を進めている。災害で死亡した人などの身元確認を規定した死因究明等推進基本法が2020年に施行。同省は21年、歯科情報の記録様式を統一し、標準規格を策定した。
 同年1月からは、同省の検証委員会でDBの実用化に向けた議論が本格化。全国の歯科のレセプト(診療報酬明細書)を活用する方法が有力視される。標準規格があるためDB構築は容易とみられている一方、データ照合の精度や保険外診療の情報が記載されていないなど課題もある。
 検証委の座長を務める青木教授は「DB化することで、どんな治療が有効かなどの医学的知見も共有でき、治療技術の高度化に役立つ」と話している。 (C)時事通信社